町村先生のBlogのコメント欄にてAAの著作権管理に関する議論が白熱している。
ちょっとこの議論は時間が無くてフォローできていなかったのだが、つい今しがたコメント欄を読了。いやはや面白すぎる。面白すぎるけど周囲の雑音が多くてやたら膨大な文章量になってしまっているので、議論のポイントと背景を私なりの解釈で解説してみようと思う。なので、間違いがあるかもしれない。あればご指摘頂ければと思う。
また、こちらも長文になるかもしれないが、当該コメント欄よりは簡潔になると思うwのでご容赦願いたい。
まず議論の発端となった「墨香オンライン」の顛末を簡単に紹介する。
株式会社ネッツジャパンが「墨香オンライン」というオンラインゲームを商品化。
そのゲームの中に2ちゃんねるを中心に広く使用されているアスキーアート(AA)の「モナー」が登場する。モナー絡みでは、つい最近ものまネコ騒動が起こったばかりであり、「モナー」を著作物として扱う場合、企業にとっては頭の痛いデリケートな問題。
で、ネッツジャパンが出した結論は
- AAの独占使用や意匠登録などを行わないという意図を明確にする。
- ロイヤリティを2ちゃんねるに供託し、将来的に著作権者が見つかった場合はその方に、一定期間(期間は未定)見つからない場合は、それを管理人個人の収益にするのでなく 2ちゃんねるの環境維持(サーバー代)などに運用すると提案
で、この判断に対して弁護士である壇先生と小倉先生が、それぞれご自身のブログで見解を述べる。その論調は対照的。それを受けて町村先生が両者の意見を、ご自身のブログで取り上げた。以下引用。
壇先生 はとても粋な解決だと評価している。
他方小倉先生 は、裁定制度を使わないのは筋違いで二重払いのリスクもあると批判的である。
いずれが説得的か、考えてみるとおもしろい。
評価するポイントが違うので、かみ合った議論では必ずしもないが。
両者の言い分共に一理あるように見える。だからこそ町村先生も取り上げたのだろうし、議論のテーマとしても面白い。
さて、ここからコメント欄の議論が始まるのだが、その前に壇先生、小倉先生両者の一致点と相違点を整理しておこう。これを頭に叩き込んでおくと、この先混乱しないで済むw。
- モナーは「著作者不明」の著作物と見なせる。(両者一致)
- 著作者不明の著作物の利用については、著作権法第67条に規定がある。(客観的事実)
- しかし、著作権法第67条の適用は現実的では無い。(壇先生説)
- 著作権法第67条を適用すべき。(小倉先生説)
- 2ちゃんねる(ひろゆき氏)はモナーの著作権利者ではない(両者+ひろゆき氏一致)
- ロイヤリティが第三者(2ちゃんねる)に(暫定的に)供託・還元されるのは、法務局に供託金が塩漬けになるより意義がある(壇先生説)
- ロイヤリティが第三者(2ちゃんねる)に(暫定的に)供託・還元されるのは、悪しき前例となる。(小倉先生説)
さて、お2人の意見の対立は見ていただければ判るように上記項番3と4、及び6、7である。
もっとザックリ意訳してしまえば、「 著作権法第67条(の裁定制度) 」に対する評価の相違と、「ロイヤリティの第三者への供託・還元」に対する評価の相違である。
整理すると、
「著作権法第67条(の裁定制度)」に関して
壇先生 → 否定的
小倉先生 → 肯定的
「第三者への(暫定的)供託・還元」に関して
壇先生 → 高く評価。
小倉先生 → 否定的。
という事だ。
さらに補足すると、壇先生が著作権法第67条について否定的な一番の理由は、とにかく「時間が掛かり過ぎる」点の様だ。実際、オンラインゲームの開発にかかる費用は莫大で、裁定を待つ間、例えば数ヶ月発売が遅れるとなると、ネッツジャパンくらいの規模の会社であればすぐに干上がってしまうのが現実だ。ビジネスには多分に「時間との勝負」という要素があり、壇先生の考え方は「法の不備を、現実社会での運用における叡智で補うべき」という立場に見える。
一方、小倉先生は「法に不備がある」とか「現実には活用されていない」という問題は重要視しておらず、「著作権法に明確な規定がある以上、それに従うべき」という立場に見える。これもある程度理解できる考え方だ。
しかし、「第三者への(暫定的)供託・還元」に対する考え方の違いはもっと鮮明だ。
壇先生は、「粋である」という表現で高く評価している。対して、小倉先生は「法的根拠が全く無い」と辛らつだ。
さて、これらの前段を踏まえ(まだ前段かよ)コメント欄から重要と思われるものを拾い読みしていく。
(誤字脱字は原文まま。強調は引用者による。)
壇先生の「著作権法の条文に固執して、セーフティを選ぶよりも、今回の対応の方が迅速であるし、著作権の目的とする文化の発展にふさわしい対応ではないか?」に持ち点全部。
小倉先生の死文(死んだ条文)に固執する見解には賛成できない。一般人が知らない条文(一度も使われたことがないらしい)でストプをかけるのは契約自由の原則に反する。
当事者が納得しているのなら、死文を引っ張り出してきてまで外野があれこれ言わんでもいいと思う。
名前: 通行中 | October 15, 2005 01:13 PM
通行中氏は議論のポイントをよく押さえている。ちなみに「一度も使われた事がないらしい」というのは誤りだった様だ(小倉先生から指摘アリ)。
で、町村先生がさっそく合いの手。
契約自由の原則は確かにgood point!
ただ、本来の著作権者が関わらない契約だけに、著作者の逆襲のリスクは一応考慮すべきでしょうね。
未来の著作権のあり方は壇先生の方に魅力があるのだけど、企業コンプライアンス的には小倉先生も捨てがたい。
でもそういうことを言っていると、著作物の公正な利用が萎縮する方向になり、著作者としても本意でないのかもしれません。そういう意識が共通了解になっている場で生み出された作品だということも考えるべきかな。
名前: 町村 | October 15, 2005 02:48 PM
町村先生の上記コメントに、議論のポイントが集約されている。
で、小倉先生反論。
で、上記リンク先によれば「補償金の額については,利用する著作物が1つの場合は,おおむね数千円から数万円の間」とのことなので、正規の手続きをとった方が却って安上がりなのではないかという気もします(ひろゆきさんはいくらのお金の「供託」(→一定期間経過後自己消費)するつもりなのか分からないですが。)。
名前: 小倉秀夫 | October 15, 2005 04:55 PM
ネッツジャパンにとっては額の大小より迅速さが死活問題という事を小倉先生は見落としている。と思ったらやっぱりツッコミ。
小倉さん、有益な情報提供ありがとう。
もう一つ、この裁定には ひどく時間がかかって役立たないという批判もありましたが、この点も改善されているのでしょうか?
名前: 町村 | October 15, 2005 06:18 PM
この後、ゆーき氏、こう氏がコメント欄参入。そして壇先生登場。
もりあがってますね。
小倉先生と比較され、町村先生に調理されるとは大変恐縮です。
紹介されついでに燃料を投下しておきます。
補助参加についでですが、2ちゃんねるの規約は無償利用についての規約ですので、本件のような有償利用については、もともと射程外で規約の有効性は問題にならないのではないでしょうか?
2ちゃんねるの環境維持(サーバー代)などに運用するということを前提とすると、ひろゆき氏が供託金を一定期間経過後自己消費というのは必ずしも正しくは無いような?
名前: toshimitsu Dan | October 15, 2005 08:43 PM
この「自己消費」という表現は確かに気になった。ネッツジャパンはわざわざ「それを管理人個人の収益にするのでなく」と明言して釘を刺している。
小倉先生の、2ちゃんねるに対する嫌悪感を露わにした言い回しがこの後エスカレートしていく。そして騒動を大きくする。
ひろゆきさんにお金を渡すのではなく、法律に規定されたとおりに法務局に供託することを非難するのは、2ちゃんねるに強い帰属意識を持つ「一部の人」だけではないかと思います。
もちろん、その「一部の人」からは今回Avexが受けたような嫌がらせを受けることになるかもしれませんが、嫌がらせを受けないようにするために一種の みかじめ料 を支払うっておきなさいというアドバイスは、少し躊躇してしまいます(今回のAvexの件を見て、「みかじめ料」を支払って事を荒立てないようにしようという企業が出てくることは想定できますけど。)。
名前: 小倉秀夫 | October 16, 2005 12:17 AM
オグリン特有の「慇懃な煽り」が次第に顔を出す。変わってないなーw
この釣りに、壇先生戸惑うw。
なんとなく、議論につられてるようで、気が進まないのですが。
裁定に長い時間がかかり、供託金として有効活用される道が無くなるのを良しとするのが多数派であるのなら、私は、一部の人と言われることを選びたいと思います。
「世界中を敵にしても、己が正しいと思うことのために戦うのが弁護士だ」というのが座右の銘ですし。
念のため、私は、2ちゃんねるに帰属意識はありません。
なお、みかじめ料と表現することには違和感を覚えます。2ちゃんねるの利用者は暴力団組員じゃないですよ。
名前: Toshimitsu Dan | October 16, 2005 01:31 AM
即座に釣りを仄めかす壇先生はサスガ!
確かに序盤は議論が噛み合っていただけに惜しい。
しかし小倉先生は尚も続ける。
「モナー」の図柄を利用するときに、その著作権者でも何でもないひろゆきさんにお金を支払うという発想がなぜ生まれるのかといえば、ひろゆきさんに支払っておけば、2ちゃんねるに強い規則意識をもっている一部の人々から、今回Avexが受けたような嫌がらせや脅迫等を受けなくとも済むのではないかと期待するからに他ならないように思うのです。ひろゆきさんにお金を支払い、そのお金自体は2ちゃんねるのサーバの維持費用に用いられたとしたところで、その利用行為が適法になるわけでも何でもなく、法的には全く無意味なのですから。
小倉先生の挑発にのって、この後感情的な反論が大量に釣れる。
ああ、この光景を何度見た事かw。もう序盤の様な議論を期待できる雰囲気じゃなくなっていく。
そんな中、「ゆーき」氏が奮闘。法的知識も豊富に見受けられる。
そして、壇説にも小倉説にもある程度の理解を示している様だ。次の発言が象徴的。
あと、私もこの方法(引用者注:ネッツジャパンのとった方法)にはそれなりに「うまいことやったな」と思ってます。
ただ法的なスジも通しておくべきでしたね、とはいえるとおもいます。
会社はやはり「法人」ですから(法的リスクも信用リスクに直結する時代ですし)
名前: ゆーき | October 16, 2005 04:11 AM
金田真一氏、中井亀之助氏など、小倉先生ブログ常連の面々も次々参入。
お構いなしに小倉先生の攻撃的発言は続く。
のまネコ問題で「一部の人」がAvexに対して行ったことは暴力団組員に勝るとも劣らないと思いますけど。
「一部の人」とエクスキューズしつつ議論を2ちゃんねる全体に適用していく小倉先生。
しかしそんな中、小倉先生の発言に光るものもあった。例えば以下の発言。
著作権管理の根本は、利用者からお金を取ってくることではなく、権利者にお金を適切に配分することにあります。そして、権利者にお金を配分できない事情が生じた場合、管理者がこれを自己消費するのではなく、利用者に返すのが本来の姿です。
挑発的な言い回しを取り除けばすごく意見としては真っ当なんだよなー。わざとやってるのか。
上記コメントの「管理者」にJASRACを当てはめ、利用者に「音楽リスナー」を当て嵌めれば素晴らしい発言なのだ。しかし、今回のケースでは「2ちゃねらー」はモナーの最大の利用者でもあるという視点がなぜか欠落している様だ。
壇先生は、冷静に議論を元に戻そうと努める。
本件では、著作権者が明らかになることがベストでしょうが、それは困難と思われます。
そのような現状にたったときに、セカンドベスト・サードベストとして、「それを管理人個人の収益にするのでなく 著作権者も利用したであろう2ちゃんねるの環境維持(サーバー代)などに運用するという提案をした」ということなのだと思います。
あー。それなのにオグリン。
この「場を提供した2ちゃんねるに利用の対価を支払え」という考え方は、強く否定しておかなければ、対Avexとの関係で見せた「2ちゃんねらー」の(一部の)凶暴さと相まって、「2ちゃんねらー」という暴力装置による強制に支えられたルールに転化する危険をはらんでいるように思われます。
ちなみに省略してしまったがこの引用の前段部分ではしごく真っ当な事をおっしゃっている。
なのに、結局挑発的な物言いで締めくくるのでそれが無意味になる。小倉先生は、いちいち2ちゃんねるへの嫌悪を織り交ぜないと発言できない体なのか?
さらに壇先生の反論。以下の一文が核心を突く。
私は、法律の枠組みの範囲内で妥当な結論を出そうと努力した人たちを、到底批判する気にはなれません。むしろ、法律万能主義に陥りやすい中でうまくやったなと思います。
また、挑発的な物言いにも苦言を。
なお、「「2ちゃんねらー」という暴力装置」という表現はいかがと思われます。私のブログではないので削除は求めませんが。
心なしか、壇先生のニュアンスにもトゲが出て来たw
この後は、新規参入コメンターも増えて議論的にも収拾がつかなくなってくる。
このあたりでオグリンウォッチャーの大御所サスケット氏も参入。
論点が拡散する中で小倉先生が燃料投入。場の空気が一変する。
公式的な見解だけならべると、任意に寄付がなされたり、正常な取引だったりするけれどもその実はそうではないことはみな分かっているという部類の金銭出えんがあることくらいわかっているでしょうに。
名前: 小倉秀夫 | October 20, 2005 09:03 AM
地味にこの爆弾は強烈だった。静観していた町村先生が反応する。
小倉さん
いかにも裏取引がありそうな書き方ですが、この件についての具体的な情報をお持ちなのですか、それとも一般論?
ひろゆき氏に、小倉さんいうところのみかじめ料を支払ったところで、現状の2ちゃんねるでは組織的な押さえが効くものでもなさそうだし、おかしな振る舞いとなれば祭りが防げるものでもないと思うので、一般論としての憶測も成り立たない気がします。
名前: 町村 | October 20, 2005 11:06 AM
具体的な情報については持っていても持っているとは言えないので聞くだけ野暮です。
2ちゃんねるについては、「組織的な押さえ」は利かないにしても、2ちゃんねるへの帰属意識の高い人々の間でのひろゆきさんのカリスマ性を考えれば、それほど不思議なことではありません。裁定手続という、法的には正しいが、ひろゆきさんにはお金が回らない制度を用いた場合には企業が攻撃されることを予告した人が個々のコメント欄にも存在したことは記憶に新しいことです。
名前: 小倉秀夫 | October 20, 2005 11:26 AM
そうなんですか。
そうだとすると、小倉さんの書き込み(暴力団よりも悪質な利用者に強いカリスマ性を有するひろゆき氏が、その危険を利用して、いわれのない金銭を脅し取るというスキームで厳に金銭を利得し費消しているという趣旨)は名誉毀損に該当するでしょうなぁ。
そしてそのことについて具体的情報はあるともないとも教えてくれないので、それが真実または真実と考える相当性は、私サイドでは全くないわけです。
そうだとすると、こういうことかな。
ブログコメント欄開設者は「小倉秀夫」名義での書き込みを認識していて、しかもそれがひろゆき氏の社会的信用を低下させることも認識しつつ、しかも、真実または真実と考えるについて相当の理由があるわけでもなく、その書き込みを放置しているわけで、ここのブログ開設者たる私も名誉毀損の責めを負うわけですか?
少なくとも私が小倉秀夫名義の書き込みの真実または真実と考える相当性があることの立証責任を負うのでは、それができない以上は責任を否定できないことになるでしょう。
削除した方がいいと思いますか?>小倉先生
名前: 町村 | October 20, 2005 11:48 AM
すっかり前半の議論はすっ飛んでしまった。そして町村先生でなければ出来ないであろう強烈な切り返し。
この町村先生の問いかけ以降、小倉先生はパッタリと姿を消したw。
ちなみに、しばらくコメンターのやりとりが続いた後、ひろゆき氏名義のコメントが。
面白そうなので、被害者として名乗り出てみます。
権利が不当に侵害されているということで、町村先生に発信者情報の開示を求めてみます。
名前: ひろゆき | October 22, 2005 12:55 AM
ひろゆき氏本人かどうか定かではないが、なんだか妙に大ゴトになってきたw。
この後、壇先生も登場しなくなり、当事者のいない議論は混迷の度を増すばかり。
主にトニオ氏や福田氏などの発言に対し、サスケット氏やハップン氏がツッコミを入れるという状況が続いている。ケロリン氏やkyoumoe氏なども登場。
できれば、この議論の原点に立ち返り(壇先生と小倉先生のエントリーをもう一度読み返して)建設的な議論に戻していただく事を願う。
全体の印象として、小倉説肯定派の方々は、「第三者による供託金管理」を問題視している様で実際は、その第三者が「2ちゃんねる」だから反発しているだけの様に見える。
何しろ、小倉先生にしてもそのシンパにしても、執拗に2ちゃんねる批判ばかり繰り返しているのだから。
いったいどっちなのか。「第三者」が「ひろゆき氏」じゃなければ無問題なのか、それとも第三者への暫定的供託そのものに反対なのか。
前者であれば、「ひろゆき氏よりもっと相応しい誰か」を提示すべきだし、後者であれば、もっと一般化した議論をすべきで、2ちゃんねる批判に終始するのは的外れという事になる。
ちなみに、壇先生も別に「2ちゃんねるへの供託・還元」に固執しているわけでは無いので、もしもっと良い供託・還元先を代案として提示できるのならば、普通にコンセンサスは得られるのではないか?
そんな中、サスケット氏はさすがにポイントを外さない。
本題は裁定制度を使用するか、利益をコミュニティに還元するかどうか。
あるいは、そう言う事例を取った際、ホンモノの著作権者が出てきたときどうなるか、ですが。
ちなみに、小倉さんも壇先生も町村先生も裁定制度を使わないで利益還元するという行為について、完全拒否はしていないのですが、争点が何故か そのうちコミュニティである2chへの利益還元がマズイという話になっていますね。
この一言が状況を的確に表している。
さて、小倉先生はコメント欄に帰ってきて町村先生の問いかけに答えるのか。
ひろゆき氏は本人なのか。発信者情報開示は行われるのか。
まだこの物語は終わっていない。