ised@GLOCOMの倫理研第7回 が12/10に開催される。
講演者はわれらが小倉秀夫弁護士である。
演題は「 プラグマティックに匿名/顕名問題を考える」。
自分が関東在住だったら速攻でオブザーバー希望するところだ。
小倉先生が提唱してきた「共通ID構想」がised倫理研にて陽の目を見る。オグリンヲッチャーとしては実に感慨深い。
個人的な注目点は、小倉先生がどれだけホンネを言うか。自論をブラッシュアップできているか?である。
そこで、今エントリーでは小倉先生が提唱してきた「共通ID構想」の変遷をおさらいしておきたい。
2004/11/25
バランスが大切
HOT WIREDブログでは連載当初から匿名批判を続けていた小倉先生。始めはそれなりにうなずける主張だった。共通IDについてはこのエントリーが(おそらく)初言及。
私は、ISPに対し一定期間アクセスログの保管を義務づけるべきであるとの法改正には賛成しますし、レンタルサーバ業者(会員に無料レンタルサーバを提供しているISPを含む。)及びBLOG事業者が共同出資で共通IDを管理する会社を設立し、そこで発行されるIDの保有者の個人情報(住所・氏名等)をその新設会社で管理するというスキームが成立するのならばそれを支持します。また、発信者情報開示請求権の範囲を拡張する法改正(少なくとも開示請求者が、「違法性阻却事由のないこと」を主張・立証する責任を負わないことを明らかにする法改正)を支持します。
このエントリーの主張は正直いって同意できる。この頃の主張が一番まともだ。
複数のBLOG事業者やレンタルサーバ事業者共同出資のID管理というのも、
「ネット上に複数業者間の(閉じた)顕名空間を創る」
という解釈にしかならないから、技術的な障壁も無い。
匿名による情報発信を希望する人間は、共通ID対象外のBlogサービスを利用すればよい。
このエントリーのタイトル通り当初はある程度「バランス」がとれていたのだが次第に小倉先生の主張は変化していく。
2005/2/15
プロバイダ責任制限法第4条の見直し
小倉先生自身が「コメントスクラム」を浴びた事によりその主張は先鋭化。このエントリーは「コメントスクラム騒動」直後のものだ。「共通ID」のベースとなる考え方を窺い知る事ができる。
昨今問題となっている「コメントスクラム」という現象にしても、コメント投稿者がblog主に正しい氏名および住所を通知しなければコメント投稿ができないシステムの元では、おそらく発生し得ないでしょう。
とすれば、社会的なシステムとしては、インターネット上で批判を受けた者は、自らを公然と批判する者がどこの誰であるのかを──それが正当な批判であれ、不当な批判であれ、批判の名を
借りた単なる個人攻撃であれ──知ることができるというものが望ましいのではないかと思います。
「正等な批判」でさえ顕名である必要があると小倉先生は主張する。それが「真摯な議論を促進する」とも。
2005/2/27
J2氏への回答
TypeKey認証は、「ネット上での人格」から「現実社会での人格」をトレースする機能は全くありません。したがって、「匿名の恥はかき捨て」的な言動を抑制する機能は「TypeKey認証」にはありません。
TypeKeyで十分では?という私の意見に対する反論。批判された者が、批判者の「現実社会での人格をトレース」出来る事こそが、小倉先生の主張にとって重要である事がこのエントリーでさらに明確になる。
そして、小倉先生がこのエントリー当時抱いていた実現イメージを語っている貴重な部分がこちら。
技術的には、ADSL事業者等と提携して、その窓口において、運転免許証などの写真付きの身分証明書を提示させ、登録希望者との同一性を確認できた場合に登録を認めるシステム等が考えられるので、それほど非現実的ではありません。
そして、Hot Wiredブログ連載終了後、小倉先生の構想はさらに具体化?していく。
2005/5/27
実名主義の弊害?
匿名が制限される事による批判例を2つ取り上げ、反論している。まず、「有益な内部告発が抑制される」という批判に対しては
内部告発者保護制度を充実させたり、内部告発を受け付けて真摯なもののみを拾い上げて公表する
NPO等の設立に奔走する方がよほど役に立ちます。
とし、内部告発に関しては別枠で新たな仕組みを設けるべきという見解。
また「ネット上での言動が理由で会社を首になったり左遷されたりする危険が生ずる」という批判に対しては、
元々すべきではないことができなくなることは、一般には「弊害」とはいいません。
つまり会社を首になるような言動は匿名でもしちゃいけません、とww。
2005/6/1
発信者情報開示システム
「共通ID」についての言及がある。やはり「小倉版共通ID構想」を読み解くのに最も重要なエントリーだ。
まずプライバシー侵害との兼ね合いについて釘を刺す。
この場合、氏名・住所等の公開は、潜在的な「被害者」のために行うのですから、本来、本人が望むか望まないかによって左右されるべきではありません(ex.自分は「ねずみ取り」に引っかかりたくないからといって、行動でナンバープレートをはずして自動車を運転することは我が国では許されていません。)
また、実運用の具体例としてWhoisデータベースの運用例を初めて取り上げる。
実際、IPアドレスを取得するにあたっては、氏名および住所等の連絡先をしかるべき登録機関に登録することが求められ、当該登録機関はこれを原則公開しています。インターネット上の紛争は当事者間で解決されるべきであり、紛争を当事者間で解決するためには紛争の一方当事者が他方当事者がどこの誰であるのかを知ることが不可欠だからです。
そして小倉先生の問題意識の核心がここ。
現行のプロバイダ責任制限法第4条は、この意味において根本的な欠陥があります。同法は、「加害者」を特定する段階で、実体法上の請求権があることの主張・立証を行うことを要求してしまっている点が問題です。しかも、違法性阻却事由がないことの主張・立証まで「被害者」に要求する多数説はこの欠陥をさらに拡大しています。
で、問題解決の具体構想が登場。
したがって、インターネットを「匿名の陰に隠れた卑怯者たちのパラダイス」にしないためには、プロバイダ責任制限法第4条を改正し、開示請求者が特定の発信者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権等を有することを立証しなくとも、発信者を特定するのに必要な情報を有する者がこれを開示するような法的システムが求められます。また、Tor等の匿名化ツールが普及し、IPアドレスとタイムスタンプからでは発信者を特定することが困難となっていくのであるならば、ブログ事業者や掲示板の管理人等に発言者の個人情報を把握する義務を負わせることだって必要になっていくのではないかと思います。もちろん、個々の掲示板の管理人はもちろん、個々のブログ事業者ですら、コメント欄投稿者の個人情報までは把握し切れませんから、共通ID発行事業者に当該ID保有者の個人情報を把握させ、「被害者」から発信者情報の開示請求を受けた場合には共通ID発行事業者がこれを開示することとしておけばブログ事業者等は義務を果たしたものと見なされるようなシステムを用意しておく必要があるのかも知れません
超訳すると以下のような感じか。
- 現状のプロバイダ責任制限法では、開示請求者が損害賠償請求権を有する事の立証責任を負っているので不公平
- 開示請求者が、損害賠償請求権の立証無しに発信者情報を掌握できるような法的システムが必要
- その為の共通ID。共通ID発行業者が、ブログ事業者やレンタルサーバ業者等に「共通」なIDを発行し、発行者の個人情報を掌握する。
- 「被害者」から開示請求があれば共通ID発行業者が該「個人情報」を開示する
- 管理としてはWhoisDBに近いイメージ。
2005/6/8
プロバイダ責任制限法の改正に向けてのメモ(1)
共通IDについてさらに掘り下げたエントリー。
ここでは共通IDの発行業者は「発信者情報登録事業者」という表現に改められている。
そのようなことを可能とするシステムとして普通に考えられるのは、特定電気通信役務提供者に対し、戸籍上の氏名及び住民票上の住所(外国人の場合は、パスポート等に記載される氏名、住所等)を登録した者以外の者を発信者とする特定電気通信の媒介を禁止するという法的システムです。
また、発信者情報登録事業者が発行する「共通ID」を発信者と1対1対応させる措置を
講じた場合には、当該発信者について氏名・住所等の登録を受けたものとみなす旨の規定を設ければ、一般の電子掲示板管理者やブログ開設者などもこの義務に対応することができます。これで問題の多くが解決するのであれば、プロバイダ責任制限法の改正だけで済みますので、私のような者でもさらさらと草案を起草できそうです。
2005/6/18
プロバイダ責任制限法の改正について(2)
これまでの主張を整理したエントリ。
重要な部分は以下。
私の目指すところは、ある発言をネット上で行った者は、その発言を現実社会で行った場合と同様の責任をとる社会です。発言者がその発言に対する責任を自らとることにより、被害者が泣き寝入りをすることを防止することができますし、そうであればこそ、被害者が発言者に責任追及できない分特定電気通信役務提供者に責任追及することを制限することができます。
これが小倉先生のホンネだ。以前から変わっていない。
しかし実際には現実社会でも、表現の「匿名性」というのは確保されていると思うのだが。。。
郵便などはネットよりはるかにトレーサビリティが低い。
あと、すげー気になった部分。
また、公開プロクシーやTor等により、IPアドレスとアクセス日時から発信者を特定するという仕組みが時代遅れになりつつある以上、掲示板サービスやブログサービスの提供者などに発信者の個人情報を把握させなければ、発信者情報の開示を適切に受けて裁判による救済を受ける機会を被害者から奪うことになります。
何も言うまい。
2005/7/3
情報フロンティア研究会報告書
このエントリで小倉先生プチ進化。情報フロンティア研究会報告書の提言を借りる形で、初めて公開鍵に言及。
前提部分の認識自体は私が言い続けていることと共通していますし、情報発信者のトレーサビリティを確保するために公開鍵方式が有効なのであればそれを用いることに異存ありません。
2005/9/16
久しぶりに共通ID構想について
このエントリーはなかなか楽しい。
共通ID方式を利用することを法律で義務づけるなんて話は、提唱者である私もしていないのですけど、どうも意図的に話を歪めた上で批判されている方が少なくないようです。
ここで、
工エエェェ(´д`)ェェエエ工
と思ったアナタ負け組。よく読めば小倉先生が正しいw
特定電気通信により第三者の権利が侵害された場合に当該特定電気通信の発信者がどこの誰であるのかを訴訟遂行が可能な程度に特定できるシステムが採用されている場合に初めて特定電気通信役務提供者は幇助者または利用主体としての損害賠償責任等を免れるものとし、当該システムが採用されていない場合には少なくとも幇助者として連帯責任を負うこととするというのが提案の根幹であり
つまり、超訳すると
- 共通IDつーのは具体例の一つにしか過ぎない。そこは本題ではない。
- 発信者が特定できる事が担保されているシステムであればそれでいい。
- ブログ事業者が共通IDを採用しない場合は被害者が当該ブログ事業者から損害の賠償を受ければいい。
なるほどーー。共通ID採用の義務化ではないですね。確かに。
しかし、共通IDを採用しないサービス事業者は損害賠償責任を全て負わなければならないとなると、事実上の強制でしょう。
小倉先生の「共通ID構想」を正しく理解するには、各リンク先を全て熟読する事が必要。
ちなみにised@GLOCOM倫理研の第5回高木浩光氏講演 の中で、高木氏が小倉先生の共通ID構想について少し言及されている。
ここでの高木氏の解釈は
「複数の事業者をまたがって同じIDを使う顕名システムを実現するわけですね。」
というもの。
共通IDは「顕名システム」を希望する人達の為の受け皿、という発想。
この解釈であれば私も異論は無いのだが…
しかし実際の小倉先生の主張は違う。
小倉先生の構想は、「匿名の卑怯者」を漏れなく排除する為の共通IDだ。
実名を出さないブロガーは全て「匿名の卑怯者」だ。
匿名の輩は他人を批判せず、お気楽日記だけ書いていれば良い、というのが小倉先生の言う「表現の匿名性」だ。
WhoisDB並にプライバシーダダ漏れの開示システムがその運用イメージだ。
小倉先生は今回どこまでホンネを包み隠さず主張するだろうか。
小倉先生が自分の主張をオブラートに包めば、それなりに緩い同意を得られて予定調和の盛り上らない議論になるだろう。
逆に、小倉先生がホンネを声高に叫びその真意が伝われば、サブスクライバーIDでさえ反対の立場を採る高木氏にとっては容認できないはずだ。
ised@GLOCOM倫理研第7回を刮目して見よ!
(つーか議事録を待て!ww)