社民党は個人的に大キライだけど、これに関してはしごく真っ当な批判なんじゃないかと思った。
過剰広報予算:小泉メルマガ、官邸HPに年間7億円超
もし自分が意見を求められたとしたらやはり「有り得ない」と答えると思う。
少なくとも、都知事の出張宿泊費が26万だったとかいうショボイ金額のツッコミよりは意義があるんじゃないか?
しかし、この額は妥当とR30氏が主張している。
[R30]: コンテンツ品質とIT活用のコストはタダではありません
これはWEB屋の端くれとして検証せずにはいられない。
ちなみに毎日の記事によれば、7億超というのは具体的には最少7億2055万~最大7億7543万円。
最小金額の7億2千万をベースに検証してみよう。
まず首相官邸WEBサイトを見てみる。
Microsoft Visioの自動サイトマップ生成機能を使って首相官邸サイトのページ数をざっと調べてみると概ね260ページ~270ページ。(注:ちょっとここは保留。一部数え漏れがあった一方で、同じドキュメントへのリンクもカウントされてたみたい。でもおそらく300ページ前後とは思う。ちなみに他ドメインのドキュメントはカウントしていない。)大規模サイトとは言えるが決して驚くようなページ数ではない。
しかも殆どのページが静的なHTMLなので、大規模なWEBアプリケーション開発も必要無い。
専用のCMSを構築している可能性も無い。もしそうなら初年度の開発費用が突出するはずだが実際には毎年7億以上かかっているのだ。
WEBサイト制作費の相場がどれくらいか、という点についてはMdNコーポレーションが発行しているWEB専門誌「WebCreators」を参考にしよう。
その2003年4月号に「WEBデザイン経済白書」という特集があった。今回批判の対象となっているのが2002年~2006年の経費だから、丁度いい。
その記事によればWEBサイトの平均受注金額は
- 50万以下— 65%
- 51~75万—14%
- 76~100万—8%
- 101~200万—8%
- 201~500万—5%
500万以上については、グラフに項目すらない。これを見て判るように、皆が思ってるほど景気のいい業界ではない。
もちろん例外はある。制作費1億を超えているサイトだって実際にはある。しかしそういうサイトは総ページ数1000ページを超えてかつFlashでインタフェースをゴリゴリ作りこむ様なサイトだったり、大規模なDB連携WEBアプリケーション開発を伴うサイトであって、本当に特殊なケースだ。
首相官邸サイトについて言えば、どんなに多めに見積もっても初期制作費2000万、年間更新料を含めても3000万を超える事は無いんじゃないか、というのが一民間業者である私の率直な感想。
次にメルマガを見てみる。
こちらも出来る限り高めに見積もってみよう。
最も購読者が多かった時で227万人。227万人に週一回メール配信するだけの為に100台の専用サーバをデータセンターに配置し、100Mbpsの帯域保証回線を確保した場合を想定する。
まず、50万円あればDELLのハイエンドラックサーバを購入できる。100台を毎年新規購入したとして、年間5000万円。
ラックスペース使用料が1台月額2万円としても、月200万。年間で2400万円。100Mbps回線が月額300万として、年間3600万円。
サーバの保守費用が1台あたり年間60万円として、100台で年間6000万円。
ここまでの総額で1億7000万円。
メール配信するだけのアプリケーションであれば処理は超単純なのだが、ここも大盤振る舞いでアプリケーション開発費に1000万円。
次はメルマガのコンテンツに充てる費用。
小泉政権時代、首相官邸メールマガジンは基本的に以下のコンテンツで構成されていた。
- らいおんはーと ~ 小泉総理のメッセージ
- 大臣のほんねとーく
- 特別寄稿
- 小泉内閣の動き
- 数字でみる日本
このうち、「小泉内閣の動き」は官邸サイトへのリンクのみで構成されているので原稿料は発生しない。
それ以外のコンテンツ全てに原稿料が発生すると仮定する。
2003年6月19日発行のメルマガ第99号をサンプルとしてみると、原稿料が発生すると思われる部分の総文字数が約5300文字。ちなみにこれは編集後記まで含めている。400字詰め原稿用紙で正確には13枚とちょっと。ざっくり15枚分として計算しても原稿用紙1枚あたり原稿料20万円として、メルマガ1号あたり300万、年間約1億5000万。
さらに、メルマガ全体を企画・調整する専門のコーディネータに年間1億を払ったとして、全ての総額は4億3千万。首相官邸WEBサイトと合わせて4億6千万。
原稿料相場やコーディネータ周りの費用は専門外なので、このあたりは検証の余地があるとしてもこれだけジャブジャブに見積もっても4億6千万。
7億2千万には到底到達しないのだが、これは私の見積もりが間違ってるのだろうか?
間違っている、考慮漏れがある可能性も否定はできない。
いずれにしても、ITだって金がかかるんだから7億2千万は妥当、というだけじゃ余りに粗雑だ。個人的な感覚として7億2千万はありえない。正直、上記に示した見積もり額4億6千万だってムダだらけで高すぎるという感覚がある。
識者のご意見をぜひ伺いたいところだ。
[追記]
ディテールに対するツッコミ大歓迎。その為にわざわざ細かい試算を開陳したという意図もあり、議論が面白くなると思ってます。
コメント欄のIRさんのご指摘はもっともで、「首相官邸サイト」だからこそかかるコストというのは決して小さくないと思います。ただ、DDoS攻撃やセキュリティ強化に費やす額としていかほどが妥当かは検討する余地がありそう。メルマガが始まる以前の額との比較がポイントかもしれませんね。
あと、ブクマコメントでid:terazzoさんからも面白いご指摘。
DBに最もコストがかかっているというのは同意です。百歩譲って初年度7億超が妥当な額だとしても実務屋の感覚としては初期構築コストとランニングコストが同額というのは考えづらいですよね。一方、予算という観点で見れば毎年同額というのは通りやすい。そこのギャップを吸収して甘い汁を吸っている存在はあるはずで、そのあたり野党がツッコミを入れる意味はあると思ってます。
ちなみに私が購読した数十通のメールマガジンの中でも、早い時と遅い時で、1時間半の開きがありました。だから送信開始から完了まで30分以上かかっていても不思議はありません。
そもそもメルマガというのは何時に相手に到着しなければならないという縛りは基本的に無いはずで、年間わずか52回の発信の為に100MBpsの帯域保証回線を確保するのも十分過ぎるという感じがしてます。
[再追記]
毎日の記事によれば首相官邸WEB+メルマガという表現だったのでそれを信頼して書いたけど、本当に内閣府や国会TVなどのサイト運営コストは含んでいないのか、WEBの回線コストは他の政府系サイトと別にコストがかかっているのか、など不透明なところもある。あと、2002年以前のコストとの比較もすべきと思ったけど今のところソースが見つかってない。