カテゴリー
人権擁護法案

『人権擁護法案反対運動』に辛口エールを送る

まず冒頭にて私のスタンスを明確にしておきます。人権擁護法案には明確に反対の立場です。しかしその上で本エントリーでは『人権擁護法案反対運動』の有り方に苦言を呈します。
今日のasahi.comより。
人権擁護法案、今国会の成立困難に 国籍条項で調整難航
ここまで来ただけでも大変な成果ですが、今のところ結論が先送りになっているだけとも言えます。
とはいえ、いくらか時間的猶予ができたのは確か。
そこで提言。
今ならまだ間に合います。反対論者は早急に理論武装に努めるべきです。
法案反対運動の啓蒙拠点サイト人権擁護(言論弾圧)法案反対!のコメント欄を見ると、誇大妄想的感情論が日に日にエスカレートしてます。以下抜粋。

  • 治安維持法復活ですか。
  • 私は将来ゲーム関係の仕事につきたいと考えているのに、今この法案が可決されれば文字通り夢をつぶされたも同然です。
  • 日本に国内クーデターを起こさせそれを武力で行使し逆らうものを悪とでもするのですか?
  • 辛口系お笑い芸人も犯罪に!!
  • チビとかデブって言ったら逮捕なわけね。すごいなぁ。

このくらいにしておきます…。いったいこの法案をどう読めばこんな解釈ができるのか…。
あまりの誤解と妄想に閉口してしまいます。
ここまでエスカレートした誤解を放置し、いたずらに増幅してしまった危機感がそのまま反対運動を支えるモチベーションになってしまうと、現実が明らかになってきた時に反対運動自体が一気にダイナミズムを失う元凶にならないでしょうか?こういった誇大妄想は、法案推進派に反論のきっかけを与えるだけです。
問題が「誤解する大衆」だけであればまだいいのですが、理論武装の浅薄さは、法案反対論者全体の傾向に見受けられます。多くのサイトでは、「人権委員会」「人権擁護委員」といった基本的語句さえ正しく使い分けられていません。「人権擁護委員会」なんて表現が多々見受けられますが、法案のどこにもそんなものは定義されていません。
Bewaad氏のBlog『BI@K』では、2ちゃんねる等における反対論旨や西尾幹二氏の記事に対して、誤りや矛盾点が冷静に指摘されています。関連エントリーは多数あり、反対派賛成派を問わずどれも必見の内容ですが、特に以下の2エントリーは重要です。
人権擁護法反対論批判 後編上
→主に2ちゃんねるを中心とした反対論に対する批判です
人権擁護法反対論批判 後編下
→上記の続き+西尾幹二氏の記事に対する批判です
なお、Bewaad氏ご自身は必ずしも法案賛成というわけでもなく、客観的に反対論者の”脇の甘さ”を指摘しているように見受けられます。反対論者はこうした『善意の批判』を真摯に受け止め、聞き入れるべきところは聞き入れ、反論すべき点はしっかりと反論を準備して、理論武装をより強化するべきです。
保守系の有名ブログの1つIrregularExpressionさんも、明確に人権擁護法案に反対の意思表明をされていますが、やはり誤解に基くと思われる表現が散見されます。3月18日のエントリーでは、以下の様な記述があります。[3/21追記:以下の記述はgori氏が「一番オレの考えに近いコメント」として2ちゃんねるからコピペしたものです。]

人権擁護法案は、国連のパリ原則に即した形で成立させるなら問題はさして無い。
別に国民への直接のプレッシャーにならない。
人権機関が圧力をかけるのは行政で、最終的な対応の責任は判断は行政にあるからだ。
ワンクッションはいることによって、人権機関の暴走はなくなる。
法務省の人権擁護法案は、パリ原則の主旨に全く即していない治安維持法だ。

まず、「パリ原則に即した形」についてですが、若隠居さんのBlogでもすぐに反論されていましたが、私からも補足。パリ原則には「準司法的権限を有する委員会の地位に関する補充的な原則」として次のような記述があります。以下抜粋。

国内機構に対しては,個別の情況に関する申立てないし申請を審理し,検討する権限を与えることができる。国内機構の扱う事件は,個人,個人の代理人,第三者,NGO,労働組合の連合会及びその他の代表制組織が持ち込むことができる。この場合,機構に委ねられた機能は,委員会の他の権限に関する上記の原則を変更することなく,以下の原則に基づくことができる。
(a)  調停により,又は法に規定された制約の範囲内で,拘束力のある決定によって,また必要な場合には非公開で,友好的な解決を追求すること。
(b)  申請を行った当事者に対し,その者の権利,特に利用可能な救済を教示し,その利用を促進すること。
(c)  法に規程された制約の範囲内で,申立てないし申請を審理し,又はそれらを他の権限ある機関に付託すること。
(d)  特に,法律,規則,行政実務が,権利を主張するために申請を提出する人々が直面する困難を生じさせてきた場合には,特にそれらの修正や全面改正を提案することによって,権限ある機関に勧告を行うこと。

このように、個別の申し立て、申請を審理し検討する権限が与えられると明記してあります。さらに原則として「調停」「救済」「勧告」といった具体的権限についても言及されています。
一方、今回の人権擁護法案で定められた内容を見てみると、人権委員会に認められた権限は「調停」「勧告」「公表」までであり、「勧告」が法的拘束力を持たない事を考えれば「パリ原則の主旨に全く即していない」と、何を根拠におっしゃっているのかいささか疑問です。(誤解なきよう補足しますが、「公表」制度にはおおいに疑問を持っており、私が法案に反対する理由の一つである事は明言しておきます)。
ちなみに後述する部落解放同盟の機関紙「解放新聞」の一文でも「パリ原則をふまえた法案整備を」と訴えています。パリ原則は法案推進派の拠り所でもあり、安易にこの名を持ち出すのは危険です。
また、「治安維持法だ」という表現についてですが、確かにキャッチフレーズとしては刺激的でインパクトがありますが、真実とはかけ離れた誇大表現と言わざるを得ません。
人権擁護法案で定める人権委員会の権限には、「逮捕」はおろか「拘禁」する権限さえ無いからです。「勧告」も何ら法的拘束力を持ちません。制裁的意味合いの措置としては「公表」があるだけです。
一方、世紀の悪法とされた改正後の治安維持法第一章第一条を例に見てみましょう。

国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ3年以上ノ有期懲役ニ処ス

治安維持法は冒頭からコレですよ。まったく次元が違いませんか?人権擁護法案が悪法だというのは同意ですが、あまりにも誇大な煽りになってしまってないでしょうか。
私はブロガーとしてのgori氏を大変尊敬しています。記事へのコメントも多数させていただいてます。だからこそこのような安易な煽りは見たくないんです。法案について詳しく知らない人々にはアピールしても、有識者層からは逆に失笑を買う結果になりはしないか、私はそれを危惧します。いい加減な理論武装では、有識者層全体を巻き込んで反対運動を大きなうねりにする事はできません。
最後に部落解放同盟WEBサイトに掲載された「解放新聞」からの引用です。

部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会の第5回中央実行委員会を2月23日午後、参議院議員会館でおこなった。実行委ではこの通常国会が「人権侵害救済法」制定の最大の山場、私たちがめざす法律へ、「パリ原則」をしっかりふまえたものをこれから作っていこう、と意志一致した。各地実行委員会などから代表180人が参加した。集会後は、国会議員への要請行動にとりくんだ。
 基調のなかで谷元昭信・事務局次長は、今日時点での論点整理として、①人権委員会の独立性確保のために法務省ではなく内閣府の所管に②実効性確保のために地方での人権委の設置が必要③公権力の不当な介入の排除―メディア規制の削除、確認・糾弾への不当な介入の排除をあげ、原則を放棄することなく、安易に妥協することなく、これからが山場だ、闘いをつづけよう、とよびかけた。
 開会あいさつで組坂繁之・副会長は、この通常国会が最大の山場、安易な妥協はしない、100点満点をめざして全力をあげよう、と訴えた。集会では、自民、公明、民主、社民の各政党の代表があいさつし、この国会で人権侵害救済のための法律の制定へとりくむ決意をのべた。

このように、解放同盟はこの法案の目的の1つが糾弾への不当な介入の排除と明言しています。この記事だけでも、一般国民がこの法案に不安を抱く根拠としては十分です。
他にも朝鮮総連や創価学会など、人権擁護法案には各種団体の思惑が折り重なっていて全体像がなかなか見えません。そういった現実を啓蒙し現状認識をある程度共有した上で、例えば法の専門家である方々に「法の濫用を防ぐ為の条文改正私案」というテーマで意見を出し合ってもらうとか、そういった建設的な議論への誘導も有効な施策の1つと思います。
今の様に、「廃案か法案成立か」といった二元的勝ち負け論ではなく、「カウンターとしてどういう条文を盛り込むか」といったカードを手にしておくのも勝負事には必要です。「濫用を防ぐ」という大義名分であればどの団体も反対しづらいでしょうし。
無関心な人間の耳目を集める為にある程度の「煽り」が必要なのは理解します。
しかし、感情的なアジテートがあまりにも先行し過ぎた反対運動では、先々あまり良い結果を生まない気がします。法案には反対しつつも反対運動に積極的ではない多くのブロガーが存在するのも事実です。
西尾幹二氏や、西村幸祐氏gori氏といった、多大な影響力を持つカリスマブロガーの皆さんが、その点に留意して今後の運動を展開していただければ幸いです。

「『人権擁護法案反対運動』に辛口エールを送る」への14件の返信

パリ原則に基づいてつくればいいのか?

goriさん、それはちょっと違うと思います。
朝日新聞が社説で人権擁護法案と総連・解同を援護射撃
ここで、2ちゃんねるにあったある意見に同意されていますね。…

どうもね、うさんくさいですよ、この反対運動は。大半はそれこそ普通の人が本当に不安を抱いているんだろうけど、ごく一部は何を考えているのか、どうも怪しくなってきた。
うちの今日のエントリにも書いたんですが、例の新聞記事風に人権擁護法案をネタにした奴。あんなものをなんの注もなしにのっけて平然としているなんておかしいですよ。あれじゃあ、西村さんに朝日を批判する権利はこれっぽっちもありゃしません。ただの煽りやアジテーションじゃないです、これは。そういえばgoriさんも同じやつをのっけていながら、一言のコメントも註釈もない。変です。
J2さん、これ、慎重になった方がいいですよ。のせられている可能性があります。裏で何を考えてんだか想像がつきませんが、なんかありますよ。。。と、こちらも隠謀論めいてきてしまったw。いや、しかし、、、妙です。

陰謀なんて無いでしょう、単に2chに毒されただけ。
とはいえgoriさんとこならともかく、西村さんのところでネタ記事ですか・・・

若隠居さん>
>ごく一部は何を考えているのか、どうも怪しくなってきた。
言われてみれば、人権擁護法案そのものがうさんくささ満点ですから、反対勢力の中に「うさんくさい」連中がいてもおかしくないですね。全体で見れば私もJSFさんと同じ見解ですけど、「ごく一部は」確かに怪しいです。
>例の新聞記事風に人権擁護法案をネタにした奴。あんなものをなんの注もなしにのっけて平然としているなんておかしいですよ。
私エントリー書いてる時点では西村さんの方は気がつかなかった。goriさんの場合は敢えてネタ記事を載せるというのも有り得るので、ちょっと真意を量りかねて言及しなかったんですけど。西村さんは不注意だったんじゃないかなー。個人的にはそう思いたいですが;;;
JSFさん>
>陰謀なんて無いでしょう、単に2chに毒されただけ。
一言で言ってそういう事なんだろうと私も思います。市井の人々がいちいち法案の条文とにらめっこなんかしませんしね。しかし、情報のハブを自認する方々であればそうも言ってられません。
と言いつつ私自身まだとまどっているというか、この先どうなるのか読めてないんですが…

普通の人は、わたしも含めて、単に2ちゃんに毒されただけと思うんです、JSFさんのおっしゃる通り。ただ、西村さんまであんなネタを注なしで使うことない。ただの煽りにしてはやりすぎだ。プロのもの書きが不注意でわざわざのっけるか?と、思いますよ。いったいなんのために煽ってるんだろ。そこで、裏がありそうな気になってくる、、、
まあ、陰謀論はわたしの疑心暗鬼と妄想ですから、軽く流して下さい。ひとさまの軒先でちょいと失礼しました。

外圧に始まった人権擁護法案

今日、午後2時から福岡市内において救う会福岡として人権擁護法案反対の情宣活動を行った。参加者は8名と少なかったが、思想・表現の自由すら奪いかねない人権擁護法案の…

>ただ、西村さんまであんなネタを注なしで使うことない。ただの煽りにしてはやりすぎだ。プロのもの書きが不注意でわざわざのっけるか?と、思いますよ。
そう言われてみればそうなんですよね。最近、MFさんやDANDOさんを見てしまっていたので「プロの物書き」って存在を気にした事がなかった。それ以前にJSFさんご指摘の通り、西村さんらしくないです。
いや、想像以上に反対派論陣の理論武装がグダグダだってことが見えてきた。由々しき事態です。
ホント、これじゃあ朝日のプロパガンダを笑えない。

西村さん、やっぱり「これはジョーク」ですますつもりですよ。卑怯千万、大嘘だ。
おそらくは、あれで煽るのが目的だったように思います。突っ込みが入ると「ありゃジョーク」ですます。朝日と一緒だよ。前から言おうと思っていたんですが、西村さんとこだって、これじゃあ、十分に「アジビラ」の資格十分です。
ネット右翼の存在を否定してきた若隠居ですから、右側のああいった根拠のない決め付けにはしっかりと突っ込みを入れます。
しかし、ここから先は、、、むずかしいですね。

>西村さん、やっぱり「これはジョーク」ですますつもりですよ。卑怯千万、大嘘だ。
私はしばらく様子見て、状況次第じゃもう少し突っ込んでみますよ。私の場合、「これはやばい」と思ったのはやはりまとめサイトでのコメント欄を見てです。信じられないくらい妄想がエスカレートしてる。あれ放置してたらとんでもない事になる。あれ、沈静化できるのはやはり影響力の強い西村さんやgoriさんしかいないと思ってます。そして今のようなパニック状態を不用意に煽った責任も感じてもらえたらなお良し、と。
運動の勢いに水を差すような事が言えるのも法案が差し戻しになった今しかないな、と。
ここから先が難しいのは確かですけどね…。

人権委員会が収集した資料の閲覧謄写(人権擁護法案検討メモ―番外編その4)

*<はじめに>  前回(人権擁護法案検討メモ―番外編その3)では、男女雇用機会均等法の運用状況から、人権擁護法案に基づく人権委員会が調停を中心とする準司法機関と…

人権擁護法案その2-差別被害者の救済とは

たしかに法案の構造的には「刑事法」ではなく「行政法」にすぎないのかもしれません、また暴力団対策法と同じように、被害者や支援にとっては「待ち望んだ法律」であろうと…

人権擁護法案 – 自由について

人権擁護法案をめぐって自民党法務部会が紛糾している。ネット上でも賛成派、反対派双方が一歩も引かない構えのようだ。それは、これが言論の自由にとどまる問題ではないか…

コメントは受け付けていません。