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2007年X月–YouTubeを取り巻く近未来を妄想する

2007年X月。YouTubeが本格的にビジネスに乗り出してから半年が過ぎていた。
わずか半年の間にYouTubeの収益は劇的に伸び、Googleの牙城に近づくのは時間の問題という勢いになっていた。
YouTubeのビジネスモデルがベールを脱いだのは7ヶ月前だった。
その内容は、まさにYouTubeのサービスと同様に、「誰もが驚くほど革新的ではないのだが、極めて洗練された」ものだった。
アメリカ国内の各テレビ局、コンテンツ配信業者達はその内容を慎重に検討した上で、最終的には多くの企業がYouTubeとの提携を選択した。
3大ネットワークでは、いち早く提携を発表したNBCの他、CBSがYouTubeとの提携を選択。ABCだけはGoogleが囲い込みに成功し、連携を強めた形でGoogle Videoの大幅リニューアルを検討していた。
しかし、その他有名どころではウォルトディズニーが提携を拒否したくらいで、アメリカ国内のコンテンツ企業は、ほとんどがYouTubeとの連携を決断した。
そのビジネスモデルとは、具体的に以下の様なものだった。
まずYouTubeは、コンテンツを

  1. 一般ユーザがUPするカスタマーズコンテンツ(CC)
  2. 提携企業が自ら制作・配信するプロモーションコンテンツ(PC)

の2つに分類し、明確に区別した。
その上で、新たに月額5ドルの一般向け有料ユーザメニューを発表。有料ユーザには2つの特典が与えられた。その2つとは、

  1. YouTubeとの提携企業が権利を持つコンテンツに限り、ユーザが自由にアップロードが出来る。
  2. 動画コンテンツ版アフィリエイト『AdTube』のアカウントが取得出来る。

というものだった。
当初、多くの企業が1項には反発するのではと予想されたが、意外にもすんなりと受け入れられた。
その背景にはYouTubeが施した仕様変更があった。
まず、ユーザが動画をUPLOADする際に、そのコンテンツの権利者を自己申告する仕様になった。ユーザアップロード画面を表示した際に、アップロード可能なテレビ局、コンテンツ企業の一覧がリストされる。ユーザはそこから選択するだけでよかった。
そして、コンテンツがUPされると同時に権利企業宛にはUpload-Pingが送信された。Pingを受信した企業は、そのコンテンツの内容を精査し、問題がある様ならば削除依頼を出せばYouTube側で即座に削除する、という仕組みだった。
企業側から見れば、従来YouTubeにいったいどれくらい自社のコンテンツがUPされているのか把握できない状態だったので、提携にはメリットがあった。
また、UPするのが基本的に有料ユーザなので、身元を特定しやすいというのも企業側に安心感を与えた。
また、企業側が無闇に削除依頼を出す事も無く、その数は最小限度に抑えられた。これらのコンテンツのアクセス数に応じてYouTubeに支払う広告料が減額されたからである。
しかし、それ以上にインパクトがあったのはAdTubeの方だった。AdTubeのもたらすインセンティブはユーザ・企業双方に大きな変化をもたらした。
AdTubeの仕組みは極めてシンプルだった。
ユーザが自身のブログやサイトでYouTube上にある任意の『プロモーションコンテンツ』を紹介した際に、そこからのコンテンツ視聴回数に応じて報酬が得られるというもの。Google Adsenseなどとも違いそのアクセス単価も一律。単価そのものは、Google Adsenseと比較すると遥かに小額ではあったが、アクセス先が「単なる」企業サイトではなく上質な動画コンテンツだったので、面白いものを紹介すれば月額会費の5ドル程度は簡単に相殺する事ができた。
AdTubeのアカウント欲しさに有料会員の申込みが殺到し、半年間に有料ユーザは200万人に達した。YouTubeは有料会員からの収益だけで月額1000万ドルを手にする事となったのである。
AdTubeはネット上の秩序形成にも大きな役割を果たした。ユーザが「AdTubeのアカウント抹消」を何よりも恐れたからである。その結果、YouTube提携企業以外の「無許諾コンテンツ」がアップされる事も殆ど無く、またアップロードの際の自己申告の精度も極めて高かった。
また、カスタマーズコンテンツへのアクセスは報酬の対象にならなかった為、個人サイトで紹介されるコンテンツは次第にプロモーションコンテンツがメインになっていった。その結果、プロモーションコンテンツへのアクセス比率が飛躍的に増加していった。
このアクセス増加が、今度は企業側のプロモーションコンテンツの質の向上をもたらした。
ディスカバリーチャンネルは過去の番組のダイジェスト版をYouTubeに大量放出し、全世界で多くの新規契約を獲得した。
FOXテレビは、『24(トゥエンティーフォー)新シリーズ』の10分に及ぶ長尺予告編をYouTube用に制作した他、ジャックバウアーの少年時代や秘密工作員時代のエピソードなど、YouTube配信用のサイドストーリーを多数制作し、第2次「24ブーム」を作り出してDVD売上などで大きく収益を伸ばした。
そんなアメリカでの盛り上りをよそに、日本ではやや状況が違っていた。
日本のテレビ局、コンテンツ事業者は、日米の著作権法の違いなどもあり皆YouTubeとの提携に消極的だった。
唯一、テレビ神奈川が提携を目指したが、様々な障害の為まだ実現できずにいた。
また、YouTube上のコンテンツが多数「合法化」してしまった為、日本の番組がUPされても以前に比べ、簡単に発見・削除されるようになった。
その為か、一時は隆盛を極めたYouTubeへの「日本からのアクセス」は次第に減少していった。
そんな中、ワッチミーTVはフジテレビ系列制作の番組に限り、ユーザからの投稿を許可する事を決断。YouTubeへのアップが困難になっていた事もあり、多数の投稿を集めたが実際に公開を許されたコンテンツは少なかった。それでもユーザからは好意的に受け入れられた。
日本テレビは、『第二日本テレビ』内にユーザからの投稿コーナーを設けるべく検討に入った。
GYAOは、『日本版YouTube』サービス実現へ向けて根回しを始めていた。
日本にも、『変化』の波がじわじわと押し寄せていた。

「2007年X月–YouTubeを取り巻く近未来を妄想する」への9件の返信

随分気前の良い話ですが、なんでもばら撒いていたら視覚コンテンツに金を落とそうという意欲は減衰するでしょうね。
良質のコンテンツを提供できる大手のみが利益を独占し、全体的な市場規模が縮小するという、今の音楽業界と同じ道を歩むでしょう。消費者の大部分は「粗製コピー品」だけでも満足できるようなライト層が占めているのですから。

[Others]総クリエイター時代

現在、クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権を読んで著作権などについてちょっと勉強中。先日のエントリーを書いてる時になんか違和感を感じていたのです…

>adgさん
>良質のコンテンツを提供できる大手のみが利益を独占し、全体的な市場規模が縮小するという、今の音楽業界と同じ道を歩むでしょう
小規模な企業で良質なコンテンツは生まれませんか?
答えは「否」であることは明白だと思います。
それに資本力がなくてもyoutubeと提携する方法はいくらでもあります。
>消費者の大部分は「粗製コピー品」だけでも満足できるようなライト層が占めているのですから。
その粗製コピー品に価値を見出そうというのがAdTubeというサービスだと読めるのですが。

>nasuさん
>その粗製コピー品に価値を見出そうというのがAdTubeというサービスだと読めるのですが。
AdTubeのお金はYouTubeとユーザーに流れるのでしょうに。企業はAdTubeの宣伝効果をもとに結局商品を買ってもらうことでしか利益を得られないのだから、コピー品で満足されたら上手くはいきませんよ。

メディアのビジネスモデルが広告費から成り立つことを考えると、
AdTubeの品に満足してもらうことによる宣伝効果により本来の放送の視聴率が上がるなら利益のほうが上だと思いますよ。
放送のビジネスモデルはコンテンツを販売するのではなく広告費で成り立つことを念頭に置かないとだめですよ。

テレビより手軽なネットに慣れたら、本放送見る人なんてそう増えはしないでしょう。
それにAdTubeに強制的にCMを見せる機能が備わるかどうかという前提を別としても、映画やアニメのように広告費だけでは成立しないものもたくさんあります。
なんだか水掛け論になっている気もしますが……。

興味深い番組を知って放送で見れるなら見ると思うのですが?
少なくとも私は見ます。
私は世界まるみえとかネットで見たなあと思いつつ好きだから見れるときは放送で見てますし
>本放送見る人なんてそう増えはしないでしょう
コレって根拠あるんですか?

時間の制約を受けず、好きな時に好きな所を見られるという特性が大きなアドバンテージになるのではないかと思ったので。
別段それ以上の根拠はありませんよ。

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