駒大苫小牧暴力不祥事を総括する



日本高野連が駒大苫小牧野球部長の体罰問題について、「優勝取り消さず」の決定を下した事で、この騒動は一応の決着を見た。
「とりあえずホっとした」
「優勝は取り消されるべき」
「暴力はいかんだろ」
「問題の選手は札付きだったらしいじゃないか。部長は悪くない」
などなど、様々な意見が飛び交った。
しかし、イマイチかゆいところに手が届いていないというか、総じて表層的な話に終始している気がする。
この事件ってたぶんもっと奥が深い。
というわけで、この騒動が風化してしまう前にきっちり総括しておこうと思う。

●事件の経過

各種報道から、事件の経過を時系列にまとめてみる。

6月2日 朝の練習後、駒大苫小牧野球部長(27)が3年生部員1人を「エラーしてもにやけていた」として、練習後に注意したが、反抗的な態度をとったため平手で顔を3、4発~3、40発(回数について主張の相違あり)叩いた。
6月27日 夏の甲子園予選室蘭ブロック開幕
7月24日 夏の甲子園南北海道大会にて駒大苫小牧優勝。甲子園への切符を手にする。
8月4日 野球部生徒11名の喫煙・暴行事件発覚により明徳義塾が急遽出場辞退
8月6日 甲子園にて夏の全国高校野球大会開幕
8月7日 甲子園大会中の宿舎にて、
「夏バテ防止にご飯を3杯食べるという約束があるのに同じ部員がごまかそうとした」ので、野球部長が注意したが、やはり反抗的な態度をとったため、スリッパで1回叩いた。
8月8日 同校に「部員の親」を名乗る匿名の電話があり、校長、教頭ら学校幹部が暴力の事実を把握。しかし「子どもの将来(への配慮)や、粛々と大会が進行していることなどから、関係者に多大な迷惑をかけたくないという思いがあった」という理由で学校側は高野連への報告を行わなかった
8月9日 原正教頭が大阪へ向かい、部長と面会。部長が暴力の事実を概ね認める
8月20日 決勝戦で京都外大西を破り駒大苫小牧が夏の甲子園2連覇。
8月22日 駒大苫小牧高校の篠原勝昌校長が臨時記者会見を開き、野球部長の暴力不祥事を発表。同校は野球部長を謹慎処分とした。
8月23日 駒大苫小牧が、高野連に事件の概要を報告。
8月24日 体罰被害を受けた部員が札幌市内の病院で精密検査を受け、外傷性の顎(がく)関節症と診断。
8月27日 駒大苫小牧篠原勝昌校長が高野連に報告書提出。それを受け高野連では、部長を一定期間の謹慎、報告の遅れた同校野球部については警告とする処分案を決定。また、夏の甲子園優勝を取り消さない事、秋季大会及び国体への参加を認める事も併せて決定。

客観的事実をこれだけ書き並べてみただけで、疑問点がヤマほどあるのだがそれはとりあえず置いておいて、今回の騒動で浮き彫りになった問題点を整理してみよう。
問題点は大きく分けて2つある。ネット上の様々な議論もこの2つをどう判断するかで意見が別れている様に見受けられる。
その2つとは

  1. どこからが不正で、どこまでが許容範囲なのか。その線引きはどこにあるのか。
  2. 不正があったとして、それを誰がどのように裁くのか。

の2点だ。実はこれら2つについて、これまで長い間、何一つ明確にされないまま放置されてきた。本質的な問題はそこにある。以下、それぞれについて考察してみよう。

●どこからが不正で、どこまでが許容範囲なのか

駒大苫小牧の件について言えば、どこからが体罰/暴力の範疇に入るのかという問題になる。
学校教育法によれば、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒は基本的に体罰と解釈する事が可能だ。確かに、一般の生徒であればその論はある程度納得できる。
しかし、スポーツの世界において一流を目指す場合、どうしてもその訓練は過酷にならざるを得ない。過酷だという事はすなわち肉体的苦痛を伴ってしまうという事だ。だから、一般の高校生の授業と全国制覇を目指す野球部の練習とでは、同じスキームで判断基準を設けるのは現実的ではない。
例えば、駒大苫小牧の超強力打線を生み出した原動力として、竹バットを使用した打撃練習がある。
竹バットはボールを芯で捕らえないと、手に激痛が走る。その為、選手達は必死でボールをミートするよう心掛ける。駒大苫小牧の選手が、皆シュアなミート打法を体得している裏にはそういった鍛錬があるのだ。
こういった練習法だって、もし通常の体育の授業で導入してしまえば「体罰的だ」と言って反発する保護者が出てきて不思議ではない。しかし、今回の騒動でもスキームの違いを踏まえたきめ細かい議論は一切されなかった。
正直、今回の駒大苫小牧の件はグレーゾーンだろう。どこからが体罰かという議論はされないまま、件の野球部長は結局6月と8月の「2回」に渡って暴力を振るった事になってしまった。しかし、6月の件はともかく、スリッパで1回叩くのが暴力かどうか、議論の余地はあるだろう。もしスリッパではなくハリセンだったらどうだろう。新聞紙だったら?
6月の件にしても、もし野球部長が「あれは体罰ではない」と強硬に主張したなら事態は混迷を深めただろう。どの程度の力の入れ具合だったのか、どの部分を何回叩いたのか、結局のところ当事者にしか判らない。客観的判断は、被害者の肉体的損傷から判断するしか無いのだが、今回のように精密検査が2ヶ月半も経過した後となると、「顎関節症」と診断されたところで、2ヶ月半も前の暴行によって受けた損害だと客観的に証明する事は極めて困難だからだ。
結局、「大きくなり過ぎた騒ぎを穏便に収めたい」という方向で当事者全員の思惑が一致したが故の決着であり、本質的な問題は何一つ解決していない。
こういった「判断がやっかいな問題」をスルーしたままの決着はおそらく将来に禍根を残す。結局、「騒げば甲子園全国制覇という事実でさえ覆る可能性がある」という奇妙な事実だけが残った。
このままでは、今後もっと輪をかけてナンセンスな騒動が巻き起こるだろう。

●誰が、どのように裁くのか

明徳義塾や駒大苫小牧について、表面上は高野連が裁定を下したように見える。しかし、事実上彼らを裁いたのは「匿名の告発者」だ。この状況はハッキリ言って最悪だ。
高野連には、前述したように「不正」を判断する客観的基準が無い
それだけでなく、不正が行われたかを調査する能力も権限もない
にもかかわらず「連帯責任」の名の下に高校球児の生殺与奪だけは手中にしている
考えても見て欲しい。今回の夏の甲子園出場校49校を見ても、
「選手の喫煙も無ければ指導者による体罰も無かった」
事を証明できる学校など一つも無いのだ。(というか、そもそもそんな事を証明できるはずがない)
ただ単に「誰からもタレコミが無かった」に過ぎない。
こんな状況で、「不祥事が発覚したら速やかに高野連に報告しなさい」と言う。お戯れもたいがいにして欲しい。報告したところで、どうせ「大会参加を自主的に辞退」させられるだけなのだから、「ばれないように全力を尽くす」のは自然の成り行きだ。
そもそも連帯責任というのは、大宝律令の時代から「相互監視させる事によって、低コストで秩序を維持する」という「統治者」の論理で導入されてきた。教育的意義など皆無だろう。あるならぜひ教えて欲しいものだ。「体罰」が時代錯誤だと言うなら、「連帯責任」はそれ以上に時代錯誤だ。本気で「不祥事の速やかなる自己申告」を促進したいのなら、「連帯責任」の全面撤廃しかない。今の状況のまま放置したならば、いずれ必ずや高校野球の有力校は「ライバル校の素行調査」に力を入れ始めるだろう。そして「匿名の告発者」が増えていくだけだ。

●最後に

駒大苫小牧の不祥事についてたくさんの記事を読んでみたが、その中では駒大苫小牧事件と人事管理
という記事が秀逸だった。人事管理という観点から、駒大苫小牧の指導スタッフに反省すべき点は確かにあると思う。
ただ敢えて弁護するならば、学校の部活動というのは基本的に希望者は全員受け入れなければならない。しかも、駒大苫小牧野球部はここ2、3年で爆発的に部員が増えてしまった。母体数が激増する一方で、ベンチ入りできる選手の数は変わらない。そんな中で、選ばれなかった選手の不満をフォローするのは並大抵の苦労ではないのだろうな、と思う。
それから、野球部長が8月に「スリッパで叩いた」理由であるところの「メシ3杯」について「くだらなすぎる」という論調が一部で見受けられたので、最後にそこだけフォロー。
確かに普通の人から見ればくだらない事なのかもしれないが、どんな些細な事も「徹底」したからこそ北海道勢初の「全国優勝」という奇跡が生まれたという事だけは理解して欲しい。
以下、「大旗は海峡を越えた」(田尻賢誉著)から抜粋。

04年の香田監督はチーム全体を対象にした特別な暑さ対策はしていない。~中略~
それでも、駒苫の選手達はバテなかった。
その理由は”食”だ。
とにかく食べた。03年には無かったノルマを設定。試合日、練習日に関わらず朝食からご飯は3杯以上を徹底した。甲子園滞在中、練習時間は高野連から割り当てられた2時間のみで普段よりお腹は空かないはずだが香田監督は「全部食べ終えるまではダメ」といって無理やりにでも食べさせた。
「正直、きつかったですけど、言われた事をやろうと思って食べました。
体調が悪い時ほど食べるようにしましたね」(桑原)
~中略~
最後の最後まで選手達の食欲は落ちなかった。その結果、メンバーのほとんどが大会中に2、3キロの体重増。夏バテとは無縁だった。

香田監督の下、駒大苫小牧がいかに独創的なトレーニングを積み重ねてきたかというエピソードは他にもたくさんある。夏の甲子園連覇という偉業を称えるエントリーを書くつもりで集めていたネタだ。それが、このようなエントリーになってしまったのはなんとも残念だ。

「駒大苫小牧暴力不祥事を総括する」への2件のフィードバック

  1. >選ばれなかった選手の不満をフォローするのは並大抵の苦労ではないのだろうな
    でも、コレ大事でしょうね。。強豪チームなんて、2軍3軍・・ってたくさんあるだろうから

  2. Amiさん>
    駒大苫小牧は、ここ数年で急激に強くなったもんで、そこらへんのノウハウが蓄積されていないんだと思います。
    これが、PL学園みたいな古くからの名門校だったら、そのあたりのフォローもきっとこなれているんでしょうね。

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