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「ニコニコ動画(β)」とは結局何だったのか

ここ数日ネットではニコニコ動画の話題で騒然という感じだった。
大方議論は出尽くした感もあるが、技術的理解度のばらつきが余計な混乱や誤解を招いている様に見受けられるし、重要なポイントが見過ごされてる気もするので、ここまでの総括を兼ねて整理しておきたい(長くなる予感)。
まず、この件を知らない方の為にあらためて経緯をまとめてみる。

2007年1月15日 YouTubeやAmebaVisionの動画に任意のタイミングでコメントを付けられる
サービス「ニコニコ動画(β)」開始。大きな話題を集める。
※ちなみにニコニコ動画の試験サービスは2006年12月から既に行われていた。
1月31日 ニコニコ動画βの月間PVが早くも1億を突破
2月7日 ニコニコ動画βの投稿コメント数が1000万件突破
2月20日 この頃からニコニコ動画へのDDoS攻撃が断続的に行われる
2月23日 ニコニコ動画βサービス一時停止。アナウンス上の停止理由は、DDoS攻撃の激化だったが
その後、YouTubeからニコニコ動画ドメインに対するアクセス遮断が判明。
2月24日 ニワンゴがニコニコ動画βサービスの終了、新サービスへの移行準備に入る事を発表。
2月27日 ニコニコ動画停止を影響で、YouTube動画に字幕を付けられる同系統のサービス「字幕in」の
アクセスが急増。1日200万PVに。
なお、字幕inのサービス自体は、1月14日から既に始まっていた。
3月1日 3月5日よりニコニコ動画を再開すると発表。
YouTube対応は当面見送り、替わりに自前動画投稿サイト「SMILE」(仮)のサービスも開始すると発表された。

こうした一連の経緯を受けて、ブログ界隈でもこの話題で盛り上った。
特に注目を集めたのは、「ニコニコ動画はYouTubeにとって脅威だった」「アクセス遮断はYouTubeにとって失敗だった」といった論調の記事で、代表的なものは以下のエントリ。
ニコニコ動画とYoutubeとWeb2.0時代の終焉
Mind Clip ニコニコ動画がYouTubeに嫌われた本当の理由。
これらの記事に対するカウンタとして、昨日あたりからはてなブックマークでも人気になっているのが「最速インターフェース研究会」のエントリー
「ニコニコ動画はYouTubeにとって脅威になったのでアクセス拒否された」みたいな論調に話を持って行きたがる人たちについて
紹介は省くが他のブログにも興味深いエントリーが多数あった。
以上がこれまでの大まかな流れ。さてここからがこのエントリーの本題。


ニコニコ動画βの技術的考察

冒頭にも書いた様に、技術的な誤解が元で議論が拡散してしまった印象を個人的に持ってるので、まずその点についてちょっと整理したい。
ニコニコ動画βの実装において、重要と思われるポイントは以下の3点。

  1. 主要な機能は全てFlashで実現されていた
  2. サービスを(YouTubeとの事前交渉無しに)実現する為には、FLVファイルのURI取得(ぶっこ抜き)が必須だった
  3. FLVファイルのURI取得は、YouTube-APIでは提供されていなかった

2,3については、最速インタフェース研究会さん始め、幾つかのブログが既に指摘している通り。
またFLVパスの具体的な取得方法については、ニコニコ動画みたいなものを作ってみるテストと問題点 というエントリーでZAPAさんが実に丁寧な検証をされているので、興味のある方はそちらを参照されたし。
ここで補足しておきたいのは、スクレイピングという手法自体は必ずしも「不正」という訳ではないよという点。特に、API提供というトレンドが無かった頃のWEBにおいては当たり前に行われていた手法の総称で、そもそも「正しい」とか「正しくない」という範疇の話ではなくて、あくまで当事者間の利害関係によってケースバイケースで語られるべきもの。
だから「なんだ、やっぱニコニコ動画は不正なアクセスをしてたのか」みたいなリアクションはいささか過剰反応だし、逆に「アクセス遮断しやがった!」と逆切れできる程の正当性も無いよというレベルで捉えるのが丁度良いと思う。
[追記]
この部分は、「スクレイピング」という言葉自体をネガティブな意味だと解釈している人が見受けられたので、その点に関する補足として読み取って欲しい。
今回の「当事者間の利害関係」まで踏み込めば、ぶっこ抜き行為がYouTubeにとって少なくとも「ウェルカムではない」のは確かで、過去にflvパスの取得仕様が突然変更された事を考えてもそれは明らかだとは思う。しかし本当に「不正」ならばその時点でRimoもアウトなわけで、ここは早計な判断で結論を急ぐべきでもないと思う。
[追記ここまで]
それよりもここで強調したいのは、1の方。ニコニコ動画にしろ字幕inにしろ、Flash無しには有り得ないという点。ニコニコ動画βが短期間に開発を進められたのも、字幕inが個人の非営利サイトで実現できているのも、Flashというプラットフォームがそれだけのポテンシャルを機能として最初から持っていたから。
ニコニコ動画βを異常に過大評価しちゃってる人には、そこが伝わって無い気がした。
実際、Flashでの実装はある程度ActionScriptに精通した人であればハッキリ言って簡単だ。
その実証として、私もちょっとした「なんちゃってニコニコ動画」を作ってみた。開発工数は2時間。

Flash上のローカル変数にコメントの履歴20件分とその時のタイムコードを配列で残しているので、動画を先頭に戻して再生すれば、自分のコメントも時間軸に沿って再生される
(他人のコメントは当然残らない、念のため。また、ローカル変数なのでリロードすればクリアされる)
このサンプルではサーバサイド連携はしていないが、あとはこの情報をサーバサイドに飛ばしてDBに蓄積し、XML情報としてFlash側にフィードバックしてあげれば、それだけでニコニコ動画の仕様はほぼ実現できる。
動画は以前話題になったJRメドレーを選んでみた。
ちなみにコメント位置の縦座標はランダムにしているので、再生の度に位置が変わる仕様になっている。
動画再生中の定期的なタイムイベントをPlayerオブジェクトが生成し、それを受けるリスナーオブジェクトを登録して、その時のタイムコードをこれまたPlayerオブジェクトから取得、文字列オブジェクトを動画上にアタッチしてフレームイベントでアニメーション、などなど、必要な機能がいたれりつくせりなFlashだからこそ実現できる。
何が言いたいかというと、この程度の「マッシュアップ」の可能性は、YouTubeが配信プラットフォームにFlashを選択した時点で当然折込済みだったろう、という事。
今でこそFlash Video(flv)は動画ポータルにおける配信フォーマットの主流になったが、そもそもこの流れを作ったのがYouTubeとGoogleVideoであり、2005年当初は比較的マイナーな存在だった。
例えばGoogleにしても、GoogleMapをAjaxで実装した時「Flash採用を嫌ったのでは」という見解が支配的だった。それが動画配信ではあっさりとFlashを選択したのも、その圧倒的な可能性を見抜いていたからに他ならない。
つまり、彼らの先見性にやっと時代が追いついてきた、というのが昨今の状況であって、ニコニコ動画が秀逸なサービスである事に異論は無いにせよ、「YouTubeがニコニコ動画に脅威を感じた」とまで言ってしまうのは、いささか欲目が過ぎるのではないかと思う。
ちなみに、Flashファイル上の動的テキストが検索にヒットする事は無い。そもそもSEO的にFlashは不利というのが定説で、ほぼ画面全体がFlashで覆われていたニコニコ動画βは、Player部分のみFlashを採用しているYouTubeと比べても検索との親和性は低い。


ニコニコ動画βが「画期的」だった点

ニコニコ動画が「画期的」だった事に疑問の余地は無いと思う。特に「これはスゴイ」と感じたのは異常なまでの「コメントする時の障壁の低さ」だった。
2ちゃんねるに書き込んだ事はいまだに無いが、ニコニコ動画には仕様確認も兼ねて何度かコメントしてみた。
で、実際コメントしてみて驚いたのが、その「気楽さ」だ。
どんな場違いなコメントも、あっという間に流れていく。誰も自分のコメントなど気に留めていない。そのくせ、妙な一体感が醸成される。そもそも書き手を特定する情報が無いから絡まれたりする心配も無い。
2ちゃんねるで言う「この速さなら言える」状態が定常的に続く感じ、とでも言おうか。気楽にも程がある。
あれほどまでに「書き込む快感」が増幅されるサービスは過去に体験した事が無かった。正直楽しかった。
これは2ちゃんねる文化を擁する日本でしか生まれないサービスだな、と感じた。
コメントするのに、id登録すら必要無いというのはよく考えるとかなり大胆だ。コメンターの絶対数を推測する手がかりを捨てるのは運営サイドとしては勇気がいる。そして、その結果生まれた「気楽さ」がアクセスの急増に寄与した最大要因だと思う。

最後に

結局「ニコニコ動画β」とは何だったのか。
一言で表現するのは難しい。
WEB2.0的世界観に内在する不確実性とか、YouTubeがいまだに抱える著作権問題とか、衆愚としての2ちゃんねる文化とかこれまで問題視されながらも存在し続けてきた様々な要素をすべて巻き込んで2ヶ月足らずで巨大化し、散ったあだ花か。
ニコニコ動画βについて何を語っても妙な残尿感が残る。エントリーを書き進めていくうちにかえって混乱してきた。
もうすぐニコニコ動画の新サービスが始まる。
今後どんな展開になるのかはわからないが、何か進展がある度に短絡的な判断を下してあれこれ言うのはしばらく慎みたい。
なんとなくそんな気がしてきた。全然まとまってないw。ゴメンナサイ。
[追記]
要望いただいたので一応「なんちゃってニコニコ動画サンプル」flaファイル置いときます。
Flash Pro.Ver8です。
nicosample1.zip

「「ニコニコ動画(β)」とは結局何だったのか」への7件の返信

ニコニコ動画みたいなものを作ってみるテストと問題点

ニコニコ動画みたいなサービスを作るのがどれくらい難しくて、どれくらい大変なのかを確認してみるテストと、それによりわかった問題点をあげてみます。
テスト用に…

>特に「これはスゴイ」と感じたのは異常なまでの「コメントする時の障壁の低さ」だった。
ええ、そうなんですよ。私もニコニコ動画を実際に見るまではコメント機能にどんな意味があるのか懐疑的でしたが、実際に眺めるだけでも楽しいし、コメント自体も非常に気楽に出来る。2ch掲示板自体が名無し書き込みを基本にしてコメントする時の障壁を低くし、アクセス数を大きくしている点と同じですね。(そう言うわけで私のところのブログもデフォルト名無しを設定して名無し書き込みを基本にして混沌と化しています。一歩間違えればコメント欄が制御不能になりますが)
さて、ニコニコ動画はどうなるんでしょうか。サービス停止は勿体無かったな・・・。

JSFさん>
実際体験してみないとあの感覚は判らないっすよね。
なんつか、カラオケみたいな。参加してナンボってゆー。
そういう意味で、YouTube未対応ってのは、ここのカラオケボックス随分曲数減ったね、みたいな影響はあるけど、カラオケの楽しさを一度知ってしまったらそこは大した問題じゃないのかもという気もします。

|゜Q。)<コメント欄に書こうと思ったら、思ったより長くなったので自分のトコに書いてみますた~

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