人権擁護法案の最近のブログ記事

ちょっと長いです。今回は前エントリー『人権擁護法案ポジションMAP』の続編であり、かつ人権擁護法案についての自分なりの総括です。
拙ブログにて反対運動に辛口エールを送ってからかれこれ2週間が経過したわけですが、正直もうエールなんか送ってる場合じゃないっすね。『感情的拒絶派』がここまで「サヨク的」だったとは予想外、というか予想をはるかに超えちゃってました。
当初反対派が叫んでいたこの法案の「恐ろしさ」についてはもう「客観的分析派」の皆さんがほぼ論破し尽くしてる感があります。
人権委員会の選定手続きはとりあえず国務大臣よりは厳正だし、人権委員会に警察以上の権限があるなんてのも明らかな誤りだし、人権の定義が曖昧なんてのも現行法の侮辱罪やら名誉毀損の方がよほど曖昧じゃんって話でほとんど決着済みです。もちろん議論の余地はたくさんあるにせよ、少なくとも「法案提出さえも断固許せないほどの悪法」である論理的根拠は既に失われているわけです。

またまたBewaad氏の引用になり恐縮ですが、『人権擁護法反対論批判 後編下』における西尾幹二氏への批判が、感情的拒絶派の法解釈のお粗末さを象徴的に表してます。以下抜粋。

一読しかしないからこんなテキストになってしまうのですよ(笑)。法律の専門家にアドバイスを受けつつ、何回か読んでください。

この一文は、「法律の専門家なら誰だってこんな誤読はしない」という事を暗に示唆している重要な指摘です。そしてそれを裏付けるように、こういった「誇大妄想」に与する「法の専門家」というのは今までのところ実際見当たりません。

少しくらい誤りを認めても反対運動はまだいくらでもやりようはあると思うんですが。
というか、専門家の意見はむしろ積極的に取り入れた方がいいと思うんですが。
なんで論点ずらしにやっきになるか、完全スルーするか、のリアクションしか無いんでしょうね。
そういうやり方は
”元記事の正当性を証明できないのに「問題は政治圧力があったかどうかだ」と論点をずらして非を認めない朝日新聞”
と同じくらい見苦しいという事は自覚して欲しいと思います。

と、ここまではいささか辛らつな内容になってしまいましたが、正直『感情的拒絶派』に対して理解できる部分もあります。
結局彼らは解同、創価学会、総連といった見えないモンスターに恐怖しているわけです。なぜ「見えない」モンスターかというと、言うまでもなくマスコミが報道をタブー視しているからに他なりません。
筑紫哲也が「屠殺場」発言で1年の長きにわたって苛烈な糾弾に晒され続けた事件や、最近では拙ブログで取り上げたサンデープロジェクトでの間抜けな謝罪劇がありました。
創価学会に関して言えば、公称350万部の聖教新聞、80万部の公明新聞、その他多くの出版物の印刷の発注、広告出稿を通じて、大手メディアは進んで創価批判の自主規制を敷いていると言われています。利益誘導型タブーというヤツですね。
結局一般庶民は一部ジャーナリストの著作やネットの情報を頼りに、見えないモンスターの全貌を想像する以外にない。見えないモノについていくら議論しても噛み合わないのは当然です。
このあたり、plummet氏の指摘が的を射ている気がします。『ちょっとだけ主張の向こう側が見えてきた?』より以下抜粋。

なんてことを書いている俺も、実は「叩くなら差別利権だ、そこしかない」とかつて書いていたりする。んが、それだって確定的な証拠があってのものだからなぁ……誰それが推進しているからこれこれの目的があるに「違いない」って段階で陰謀論めいてて信頼性ないし。対案・修正案の方向に持って行けばという気がしないでもないが、そっちへ行かなかった……

 利権を理由に反対するなら、過去の差別利権行為にまつわる証拠とか持ってこないとねぇ……まぁ難しいよなそれは。

結局、こういったタブーの殻を打ち破って新聞やテレビが当たり前に解同や創価の(批判含めた)報道をバンバン出来るような環境になれば、ここまで過剰な「感情的反対論」は起こらないと思うわけです。つまりこの反対運動は一般庶民の「よくわからんけどオカシイと感じる”直感”の発露」だと。
というわけで、私が前から主張していた『人権擁護法案時期尚早論』に繋がります。まともな「人権論議」が出来るようになるには、もう少し社会が成熟する必要がある、と思うわけですな。ここまで巨大な「タブー」を抱えた国など欧米には無いわけですから。

人権擁護法案を素直に読めば、そのコンセプトを一言でわかり易く言うと
「これまで放置されてきた(現行法においても)不法行為と見なされる人権侵害を、見過ごさない体制を作る」
という事なんだと思います。この解釈に異論は無いですよね。
で、この法律が施行された場合、やはり最も有効に機能する場所に「ネット」があるわけです。確かに目に余る誹謗中傷や差別発言が溢れているのは事実ですから。そして人権委員会が何件かの悪質な「ネット発言」を勧告・公表に踏み切った場合、それが見せしめとなってある程度ネット全体が「萎縮」するのは容易に想像できます。さて、今の法案推進派の中で、このネットに対する「牽制効果」を喜ばない勢力があるでしょうか?
「解同」「創価」「総連」「民主党w」「マスコミ」に至るまで、現状の「ネット」を快く思っていないのは自明です。この点に関しては利害が一致するわけですよね。結局小倉弁護士がこの法案について語った

はっきり言ってしまえば、人権擁護法案での差別規制が導入されて困るのは、匿名の陰に隠れて特定の者に人種差別的な表現を投げつけて嫌がらせをしている人たちや、匿名の陰に隠れて特定の人種等に対する憎悪を煽ってその者たちに対して差別的な処遇をするように呼びかけたりしている人たちだけではないかと思われます。

という一文が最も的確にこの法案を言い当てていたのかなと今更ながら思います。そこは今となっては同意しますがしかし....
一方で、今の日本の「タブー」を打ち破る原動力もネット以外に考えられないわけで。そう考えるとやっぱり結論としては「時期尚早論」に戻っちゃうんですな。逆に人権擁護法案が今通っちゃうと、この「タブー」がさらに末永く続いてしまう可能性が高まってしまいます。うーんやっぱり順番逆。人権法案は後。

このあたりの主張をいくらか補強するネタを一つ。民主党江田五月議員が2001年の解同定期大会で発言した内容。(江田氏のメールマガジンバックナンバーより)

「部落差別に関するインターネットの書き込みは、許せない人権侵害です。一日も早く、独立した人権救済機関を設置し、こうした事態に対処できる仕組みを整えなければなりません。国内でも国際社会でも、法と正義を実現する新しい仕組みを作る時です。ピンチをチャンスに変えましょう。」

前回の法案提出の時から、インターネットはターゲットの1つだったわけですね。

最後に、この法案が可決しちゃったら、の話。
まあ、通っちゃったらそれはそれでそれほど悲観的になる事もないと思ってます。そのあたり極東ブログさんがうまい事おっしゃってますので抜粋。

私は、この手の危機感に、どうにも拭えない違和感がある。
 その違和感の核心は、私は思うのだが、悪法が成立したら、そんなもの、シカトしてやればいいじゃん、ということ。

御意。今だって70万人が放送法をシカトしてNHKに抗議の意を表明してますね。
海老沢だって、国民に罷免権なんてなくても事実上世論が引き摺り下ろしたわけです。
国民年金法だってシカトされまくって国民の4割が未納だし。

まあ、単純に比較できないかもしれませんが、例えば。
万が一、香ばしい人権委員会が構成されて、アホな勧告を乱発して国歌斉唱を普通に指示した学校の校長先生やらが勧告公表された場面なんかを想像してみましょう。
そんな時は、公表されちゃった人にはみんなでFAXやらメールやらで「GJ!」とでも激励してあげればいいわけですね。
そんで、人権委員会に世論が大ブーイング突きつければいいんですよ。法律なんかより、「世論」のプレッシャーの方がはるかに強いんですから。

人権擁護法案の反対集会は今日でしたね。まあ、今後も紆余曲折あるとは思いますが、私の主張はここから大きく変わりそうもないのでとりあえずここで一段落、とします。

人権擁護法案をめぐる議論はあいかわらず収束しない。もう少し論点が絞れないものだろうかと思うが、いまだに盲人が象を語る風情だ。
あらためて自論を整理しようと思い、現状把握の為の資料を作ってたら結構な量になったので、単独エントリーにしたいと思う。人権擁護法案を取り巻くネット上の勢力や団体、政党の立ち位置を私の独断でMAP化してみた。解説文と併せて、複雑に入り組んだ現状分析を理解する一助になればうれしい。このMAPを基に、次エントリーであらためて人権擁護法案に関する自論を整理する予定。
※MAPはクリックすると拡大します。
jinkenmap.gif

※図中の”強硬””穏健”とは、法案に対するコミットメントの強度を表しており、各集合体の持つ性質を意図している訳ではありません。

以下、各勢力・組織について簡単に解説。

1
感情的「拒絶」派 この法案が成立してしまったら日本は滅ぶ、と言わんばかりのトーンで強硬に反対運動を展開するネット上の勢力。最近では有志によるビラ撒きや緊急集会などオフラインの活動まで拡張してきているようだ。ただ、その主張には全体的に法案の誤読や事実からかけ離れた誇大表現が多く、ここにきて行き過ぎたアジテーションに対する批判もでてきた。
~参考リンク~
人権擁護(言論弾圧)法案反対!
サルでも分かる?人権擁護法案
酔夢ing Voice(西村幸祐氏)
2
論理的「反対」派 法案に反対しつつも、感情的過ぎる現状の反対運動とは一定の距離感を保っているネット上の勢力。「反対」の強度はけっこうまちまちで、”ウィークに反対”という人も多い。最近では法案そのものより、法案反対運動の行き過ぎを諌める論調が強まってきた気がする。
~参考リンク~
カレーとご飯の神隠し:人権擁護法案議論のウソとホント(カリー氏)
若隠居の徒然日記 (若隠居氏)
議論の交差点 (elios氏)
3
客観的「分析」派 論理的反対派と立ち位置は近い。法律についての深い知識を持つ人が多く、条文の解釈によるアプローチに主眼を置く。法案の賛否問わず、為になる記事が多い。(特にBewaad氏、an_accused氏のサイトは必見)
また、ネット上にもわずかに法案肯定派がいるが、やはり法解釈に長けた層の人が多いので、ここに分類しておく(小倉弁護士など)。
~参考リンク~
BI@K (Bewaad氏)
an_accusedの日記(an_accused氏)
IT法のTOP FRONT(小倉秀夫弁護士)
4
自民党推進派 人権問題懇話会(座長古賀誠)」を中心とする自民党内勢力。もし法案が国会提出となれば、あらためて自民党内の推進派勢力が明らかになるだろう。
法案提出のきっかけが古賀氏と解同執行委員長組坂氏との会談であると言われ、それが本法案に対する拒絶反応の一因になっていたりもする。
~参考リンク~
自民党公式サイト
5
公明党 与党の一員として「人権問題懇話会」にも参加。「今国会中の法案成立」に向けての強い決意を表明している。メディア条項の削除に最も強く抵抗しているが、背景にはこの法案を創価学会バッシング報道に対する抑止力として機能させたい思惑があると思われる。また、国籍条項を設ける事にも強く反発している。
~参考リンク~
公明党公式サイト
6
自民党反対派 自民党法務部会内では、古川禎久議員や亀井郁夫議員など。他には安倍晋三議員などが反対の意思を明確に表明している。もし法案が国会提出となれば、あらためて自民党内の反対派勢力が明らかになるだろう。
7
民主党 自民党案では手ぬるいとして、人権侵害救済法という対案を発表済。この対案のポイントは、 (1)メディア規制条項の削除 (2)人権委員会を法務省外局とせずに、より独立性を高める の2点。 岡田代表は「今国会での成立を目指す」と明言しており、解同の方針に全面的に従った格好。
~参考リンク~
民主党公式サイト
8
共産党 言論表現の規制に繋がる、エセ同和行為を助長する事になりかねない、などの理由で、法案に反対の立場を明確にしている。
~参考リンク~
日本共産党中央委員会
9
社民党 主張内容としては民主党とほとんど同じなのだが、「自民案では絶対ダメ!」というニュアンスで、微妙に立ち位置が違う。「人権委員会の独立性」に拘っており、法務省の外局とする事に強く抵抗している。しかし、実際に法案が国会に提出されれば、法案成立を優先させる為の妥協は惜しまない可能性が高い。
~参考リンク~
社会民主党公式サイト
10
部落解放同盟 (解同) この法案成立に向けて最も強く働きかけている団体の1つ。「パリ原則」に則った法案を目指しており、その理念は民主党が出した「人権侵害救済法」に反映されている。
人権委員会が法務省外局である事に強く抵抗する理由は、パリ原則の精神に則っていないだけでなく、法務省が「確認・糾弾」について否定的な見解を示している為と思われる。
~参考リンク~
部落解放同盟中央本部
11
創価学会 意外にも創価学会が直々にこの法案に関してコメントを発表したりは特にしていない模様。とりあえず公明党の主張をそのまま踏襲すると考えてよいだろう。
~参考リンク~
創価学会 公式ホームページ
12
全国人権連 被差別部落民の全国組織として特に活発に活動しているのは、解同の他にこの全国地域人権運動総連合(全国人権連)[2004年全解連から改組]と、解同から枝分かれした部落解放同盟全国連合会(全国連)の3つがある。日本共産党系の団体であるこの全解連は、2002年の前回法案提出時から一貫して「国民の「人権救済」に役立たない「人権擁護法案」の廃案を求めます」と主張しており、2005年3月17日には、小泉首相らに人権擁護法案再提出を断念する旨の要請書を提出。解同との立場の違いを鮮明にしている。
~参考リンク~
全国地域人権運動総連合
[2005/3/31 修正]
13
全国連 部落解放同盟全国連合会(全国連)は、第14回全国大会にて”糾弾闘争を禁止する「人権擁護法案」絶対反対”という特別決議を採択し、明確に反対の立場を表明している。部落差別撤廃という同じ目的に立つはずの3団体のうち、解同以外の2団体がいずれも法案反対である事、そして反対する2団体もその反対理由が全く異なる事を見ても、この法案の複雑な背景が見て取れる。
~参考リンク~
部落解放同盟全国連合会
14
救う会 北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)は、2005年3月14日”拉致問題の解決に障害となる「人権擁護法案」に断固反対する緊急声明”を出し、人権擁護法案には断固反対の立場を取っている。 しかし、救う会の目的はあくまで「拉致問題解決」であり、今後どの程度法案反対に向けた活動を行うのかは不透明。
~参考リンク~
救う会全国協議会
15
家族会 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)から、人権擁護法案について公式のコメントは無い模様。しかし、事実上「救う会」と一体化した活動を行っているので、救う会の見解と大きく異なる事は無いと思う。
16
朝鮮総連 反対論者から騒がれている割には、総連はこの件に関して、実際驚くほどリアクションが薄いし、目立った働きかけも今のところ無い。しかし国連人権委員会などの場で繰り返し日本政府を批判してきた経緯からしても、「賛成派」なのは自明。今後の動向が注目される。
~参考リンク~
在日本朝鮮人総聯合会
17
民潭 こちらも朝鮮総連同様、人権擁護法案に関してはリアクションが薄い。立場的に「賛成派」である事は間違いないと思うが、竹島問題や地方参政権、教科書問題などに比べて注目度は極端に低い様だ。
~参考リンク~
在日本大韓民国民団中央本部
18
マスメディア 2002年の時に比べると、メディア条項が凍結されている所為か注目度は低い。新聞では産経新聞だけが反対派に近い論調だが他は総じてそっけない。ジャーナリストに目を転じても、反対するのは「メディア条項の凍結」についてで、議論の噛み合いは悪い。安倍晋三議員がここにきて法案反対の活動を強めており、これをきっかけにしてどの程度世間の耳目が集まるかが今後注目される。

本当は日弁連などもMAPに入れたかったんですが、あんまりごちゃごちゃし過ぎてしまったので削除しました。記述誤りなどお気づきの場合、コメント欄等でご連絡いただければありがたいです。
次エントリーに続きます。

まず冒頭にて私のスタンスを明確にしておきます。人権擁護法案には明確に反対の立場です。しかしその上で本エントリーでは『人権擁護法案反対運動』の有り方に苦言を呈します。

今日のasahi.comより。
人権擁護法案、今国会の成立困難に 国籍条項で調整難航
ここまで来ただけでも大変な成果ですが、今のところ結論が先送りになっているだけとも言えます。
とはいえ、いくらか時間的猶予ができたのは確か。
そこで提言。
今ならまだ間に合います。反対論者は早急に理論武装に努めるべきです。

法案反対運動の啓蒙拠点サイト人権擁護(言論弾圧)法案反対!のコメント欄を見ると、誇大妄想的感情論が日に日にエスカレートしてます。以下抜粋。


  • 治安維持法復活ですか。

  • 私は将来ゲーム関係の仕事につきたいと考えているのに、今この法案が可決されれば文字通り夢をつぶされたも同然です。

  • 日本に国内クーデターを起こさせそれを武力で行使し逆らうものを悪とでもするのですか?

  • 辛口系お笑い芸人も犯罪に!!

  • チビとかデブって言ったら逮捕なわけね。すごいなぁ。

このくらいにしておきます…。いったいこの法案をどう読めばこんな解釈ができるのか…。
あまりの誤解と妄想に閉口してしまいます。
ここまでエスカレートした誤解を放置し、いたずらに増幅してしまった危機感がそのまま反対運動を支えるモチベーションになってしまうと、現実が明らかになってきた時に反対運動自体が一気にダイナミズムを失う元凶にならないでしょうか?こういった誇大妄想は、法案推進派に反論のきっかけを与えるだけです。

問題が「誤解する大衆」だけであればまだいいのですが、理論武装の浅薄さは、法案反対論者全体の傾向に見受けられます。多くのサイトでは、「人権委員会」「人権擁護委員」といった基本的語句さえ正しく使い分けられていません。「人権擁護委員会」なんて表現が多々見受けられますが、法案のどこにもそんなものは定義されていません。
Bewaad氏のBlog『BI@K』では、2ちゃんねる等における反対論旨や西尾幹二氏の記事に対して、誤りや矛盾点が冷静に指摘されています。関連エントリーは多数あり、反対派賛成派を問わずどれも必見の内容ですが、特に以下の2エントリーは重要です。

人権擁護法反対論批判 後編上
→主に2ちゃんねるを中心とした反対論に対する批判です
人権擁護法反対論批判 後編下
→上記の続き+西尾幹二氏の記事に対する批判です

なお、Bewaad氏ご自身は必ずしも法案賛成というわけでもなく、客観的に反対論者の”脇の甘さ”を指摘しているように見受けられます。反対論者はこうした『善意の批判』を真摯に受け止め、聞き入れるべきところは聞き入れ、反論すべき点はしっかりと反論を準備して、理論武装をより強化するべきです。

保守系の有名ブログの1つIrregularExpressionさんも、明確に人権擁護法案に反対の意思表明をされていますが、やはり誤解に基くと思われる表現が散見されます。3月18日のエントリーでは、以下の様な記述があります。[3/21追記:以下の記述はgori氏が「一番オレの考えに近いコメント」として2ちゃんねるからコピペしたものです。]

人権擁護法案は、国連のパリ原則に即した形で成立させるなら問題はさして無い。 別に国民への直接のプレッシャーにならない。 人権機関が圧力をかけるのは行政で、最終的な対応の責任は判断は行政にあるからだ。 ワンクッションはいることによって、人権機関の暴走はなくなる。 法務省の人権擁護法案は、パリ原則の主旨に全く即していない治安維持法だ。

まず、「パリ原則に即した形」についてですが、若隠居さんのBlogでもすぐに反論されていましたが、私からも補足。パリ原則には「準司法的権限を有する委員会の地位に関する補充的な原則」として次のような記述があります。以下抜粋。

国内機構に対しては,個別の情況に関する申立てないし申請を審理し,検討する権限を与えることができる。国内機構の扱う事件は,個人,個人の代理人,第三者,NGO,労働組合の連合会及びその他の代表制組織が持ち込むことができる。この場合,機構に委ねられた機能は,委員会の他の権限に関する上記の原則を変更することなく,以下の原則に基づくことができる。
(a)  調停により,又は法に規定された制約の範囲内で,拘束力のある決定によって,また必要な場合には非公開で,友好的な解決を追求すること。
(b)  申請を行った当事者に対し,その者の権利,特に利用可能な救済を教示し,その利用を促進すること。
(c)  法に規程された制約の範囲内で,申立てないし申請を審理し,又はそれらを他の権限ある機関に付託すること。
(d)  特に,法律,規則,行政実務が,権利を主張するために申請を提出する人々が直面する困難を生じさせてきた場合には,特にそれらの修正や全面改正を提案することによって,権限ある機関に勧告を行うこと。

このように、個別の申し立て、申請を審理し検討する権限が与えられると明記してあります。さらに原則として「調停」「救済」「勧告」といった具体的権限についても言及されています。
一方、今回の人権擁護法案で定められた内容を見てみると、人権委員会に認められた権限は「調停」「勧告」「公表」までであり、「勧告」が法的拘束力を持たない事を考えれば「パリ原則の主旨に全く即していない」と、何を根拠におっしゃっているのかいささか疑問です。(誤解なきよう補足しますが、「公表」制度にはおおいに疑問を持っており、私が法案に反対する理由の一つである事は明言しておきます)。
ちなみに後述する部落解放同盟の機関紙「解放新聞」の一文でも「パリ原則をふまえた法案整備を」と訴えています。パリ原則は法案推進派の拠り所でもあり、安易にこの名を持ち出すのは危険です。

また、「治安維持法だ」という表現についてですが、確かにキャッチフレーズとしては刺激的でインパクトがありますが、真実とはかけ離れた誇大表現と言わざるを得ません。
人権擁護法案で定める人権委員会の権限には、「逮捕」はおろか「拘禁」する権限さえ無いからです。「勧告」も何ら法的拘束力を持ちません。制裁的意味合いの措置としては「公表」があるだけです。
一方、世紀の悪法とされた改正後の治安維持法第一章第一条を例に見てみましょう。

国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者又ハ結社ノ役員其ノ他指導者タル任務ニ従事シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ7年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ処シ情ヲ知リテ結社ニ加入シタル者又ハ結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為ヲ為シタル者ハ3年以上ノ有期懲役ニ処ス

治安維持法は冒頭からコレですよ。まったく次元が違いませんか?人権擁護法案が悪法だというのは同意ですが、あまりにも誇大な煽りになってしまってないでしょうか。
私はブロガーとしてのgori氏を大変尊敬しています。記事へのコメントも多数させていただいてます。だからこそこのような安易な煽りは見たくないんです。法案について詳しく知らない人々にはアピールしても、有識者層からは逆に失笑を買う結果になりはしないか、私はそれを危惧します。いい加減な理論武装では、有識者層全体を巻き込んで反対運動を大きなうねりにする事はできません。

最後に部落解放同盟WEBサイトに掲載された「解放新聞」からの引用です。

部落解放・人権政策確立要求中央実行委員会の第5回中央実行委員会を2月23日午後、参議院議員会館でおこなった。実行委ではこの通常国会が「人権侵害救済法」制定の最大の山場、私たちがめざす法律へ、「パリ原則」をしっかりふまえたものをこれから作っていこう、と意志一致した。各地実行委員会などから代表180人が参加した。集会後は、国会議員への要請行動にとりくんだ。  基調のなかで谷元昭信・事務局次長は、今日時点での論点整理として、①人権委員会の独立性確保のために法務省ではなく内閣府の所管に②実効性確保のために地方での人権委の設置が必要③公権力の不当な介入の排除―メディア規制の削除、確認・糾弾への不当な介入の排除をあげ、原則を放棄することなく、安易に妥協することなく、これからが山場だ、闘いをつづけよう、とよびかけた。  開会あいさつで組坂繁之・副会長は、この通常国会が最大の山場、安易な妥協はしない、100点満点をめざして全力をあげよう、と訴えた。集会では、自民、公明、民主、社民の各政党の代表があいさつし、この国会で人権侵害救済のための法律の制定へとりくむ決意をのべた。

このように、解放同盟はこの法案の目的の1つが糾弾への不当な介入の排除と明言しています。この記事だけでも、一般国民がこの法案に不安を抱く根拠としては十分です。
他にも朝鮮総連や創価学会など、人権擁護法案には各種団体の思惑が折り重なっていて全体像がなかなか見えません。そういった現実を啓蒙し現状認識をある程度共有した上で、例えば法の専門家である方々に「法の濫用を防ぐ為の条文改正私案」というテーマで意見を出し合ってもらうとか、そういった建設的な議論への誘導も有効な施策の1つと思います。
今の様に、「廃案か法案成立か」といった二元的勝ち負け論ではなく、「カウンターとしてどういう条文を盛り込むか」といったカードを手にしておくのも勝負事には必要です。「濫用を防ぐ」という大義名分であればどの団体も反対しづらいでしょうし。

無関心な人間の耳目を集める為にある程度の「煽り」が必要なのは理解します。
しかし、感情的なアジテートがあまりにも先行し過ぎた反対運動では、先々あまり良い結果を生まない気がします。法案には反対しつつも反対運動に積極的ではない多くのブロガーが存在するのも事実です。
西尾幹二氏や、西村幸祐氏gori氏といった、多大な影響力を持つカリスマブロガーの皆さんが、その点に留意して今後の運動を展開していただければ幸いです。

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