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誰もが名も無き「大企業戦士」に支えられている

今日はある友人Tの話をしよう。
Tは、とあるメーカー系大企業で携帯電話のファームウエアを開発している。
私とTは同期入社だった。入社後最初の配属先が同じだった。当時、まだ携帯電話なんてものは無く、ある通信機器ファームウエアの開発部署だった。一緒にコーディングをし、一緒にデバッグをした。まだ新人で、右も左も判らない中で切磋琢磨しあい、二人とも急激にスキルを伸ばした。
Tは素晴らしいライバルだった。本当に「優秀」な男だった。数年後には、完全にファームウエアに精通した「プロフェッショナル」になっていた。インサーキットエミュレータでOSの中まで追いかけた。原因不明のバグも、タスクのディスパッチタイミングがわずかに狂っていた事を看破して解決してみせた。
やがて私とTは別々のプロジェクトに転属され、お互いプロジェクトリーダーになった。
このテの業務はどんなプロジェクトでも程度の差こそあれ、過酷だ。月の残業が100時間なんてのはまだ少ない方。プロジェクトが佳境になると平気で残業は月300時間を越えた。しかしモチベーションは高かった。自分の作ったものが、様々な形で社会のインフラを支えている自覚があったからである。
当然プライベートな時間は殆ど無い。世間のニュースにも疎くなる。仕事以外の時間は、寝ているかメシ食ってるかあるいは酒を飲んでるかしか無い、そんな生活だった。
私は既に退社しているが、Tは今でも過酷な業務を軽やかにこなしている。
大企業はTの様な企業戦士だらけだ。特に優秀な人間ほど業務の負荷は高くなる。CNETのニュースなど呑気に読んでいる暇は無い。自分のプロジェクトに関係の無い技術に関しては驚くほど知識が無い。しかし、間違いなく彼らは「優秀」だ。そんな名も無き企業戦士達の名前がマスコミに取り上げられる事は無い。ネットの情報の渦の中で取り沙汰される事も無い。
昨日、「大企業には優秀な人がたくさん埋もれている」という記事を目にした。以下、抜粋。

大企業には優秀な人がたくさん埋もれている。
優秀な人を一つのプロジェクトに集結すれば、簡単に他社を圧倒できそう
なものだが、そうはならない。

なぜか?

優秀な人をかかえた部の上司がその人を放したがらないからだ。
上司から見れば、優秀な人を一箇所に集めるのは不平等だ。
自分の部から優秀な人を持っていくなんてケシカランわけだ。

~中略~

本人のためにも社会全体のためにも。それゆえ志の高い優秀な人
はみな社外へ飛び出し、ベンチャー企業などで集結する。それが現在の
Google や Six Apart や「はてな」などの活力を生んでいるのであろう。

言いたい事は判らないでもないのだが、著者のたつを氏は大事な点を2つ見落としていると思う。
1つは、「優秀」にもいろいろな種類があるという事だ。ベンチャー企業に必要な「優秀」さとは違う種類の優秀さもある。
Google や Six Apart や「はてな」のような派手な企業だけが良い企業というわけでもない。
そして、もう1つは「優秀な人材を集積」した後に残る、幾多の「優秀な人材のいないプロジェクト」の存在だ。
大企業というのは、手掛けている事業がたくさんあるからこそ大企業なわけで。
大多数の社員を抱えているからこそ大企業なわけで。
そして、せっかく雇用しているのだから出来るだけ全ての社員に機能して欲しいと想うのが当然なわけで。
企業に、おろそかにして良いプロジェクトなど1つもない。おろそかにする位だったらとっくに撤退している。たつを氏は、「優秀な人材のいないプロジェクト」がどれだけ悲惨なものか、おそらく実感が無いのだろう。
笑わないプログラマの
「【軍曹が】携帯電話開発の現状【語る】」
「【軍曹が】携帯電話開発の現状【語る】(後半)」
という記事が以前話題になった。こういう開発現場の実態がテキストになる事はめったにない。なぜかと言うと、そんなテキストを書いている時間的余裕が無いから。そして、ここまで過酷なプロジェクトに関わってしまうと、それだけで消耗しきってしまうから。そういう意味で貴重な記録だ。
笑わないプログラマで赤裸々に語られたような開発現場も、1人の優秀な人間が投入される事で大幅に状況が改善される場合がある。関連部署に声高に最終仕様を通達するリーダー。流用元の不備を見抜いて早期に手を打てるリーダー。そんな人間が上層に一人いるだけで状況は一変する。1人の優秀な人間が、100人を救う場合が多々あるのだ。それが「大企業」だ。
今年の始め、Tと数年ぶりに酒を飲んだ。
Tは、わずかな余暇の時間を競馬に注ぎ込んでいる。Excel上で凝ったVBAスクリプトを組み、独自予想ソフトを構築してけっこうな利益をあげていると言った。
私が、
「そこまでやってんならAccess使えばいいじゃん」
と言ったら、Tは
「Access?何それ?」
と言った。
TはMicrosoft Accessを知らなかった。
私がBlogをやっている事も知らないだろう。もしかしたら「ブログ」自体知らない可能性もある。
それでもやっぱりTは「優秀」だ。
もしかしたら、はてなの伊藤 直也氏が使っている携帯電話には、Tの作ったコードが載っているかもしれない。

「誰もが名も無き「大企業戦士」に支えられている」への24件の返信

優秀なひとを集めても必ずしもうまくはいかんのでしょう。
読売ジャイヤンツがそれを証明しているw。

Tさんって、TKさんかな、違うかな
読売ジャイアンツの話が出てきたので、野球の話でもw
ホークス3連続観戦行ってきました、2試合負けて昨日の3試合目・・やっと逆転ホームランで一点差で勝って
勝利の花火を見て帰ってきましたよ(ノ´▽`)ノ
9回には、最近抑えを失敗してる馬原投手が出てきたんで
応援席が、くら~ぃ雰囲気に・・
こんな感じで 選手を育てるチームって
失敗が続いてる選手にもチャンスを与えるところが、
某お金持ち球団と違うとこかなヽ(・∀・ )ノ キャッ キャッ

♪風の中のすばる~ (←2000年ですか。光陰矢のごとしorz)
「笑わないプログラマ」の件、有名だったのですかぁ。知りませんでした。ほんとの話なのかもわからないし、専門用語がわからないorz。しかし、べんきょーになりました。ご紹介ありがとうございました。
おっと、Amiさんだ。
>某お金持ち球団
 昨日、知り合いがドームに行ったらしいッス。満塁ホームランで、逆転ですか。1勝は1勝ですが。
 ところで、某お金持ち球団、どこかの球団も仲間入りしてるんでは?ファンの方に、どこかの球団の腰巾着とまでは言いませんけど。言いすぎでしたら、申し訳ありません。
 金満球団とか言うと、教祖様が・・・。
 
   ^’l~
 m(_ _)m ギネアアブラヤシ!!

MMさん>
>優秀なひとを集めても必ずしもうまくはいかんのでしょう。
読売ジャイヤンツがそれを証明しているw。
確かに集めればなんとかなるという発想で、失敗している例はたくさんありますね。
そもそも、「優秀」だと思って集めても、結局その集合体の中で優劣がついてしまうし。
Amiさん>
Tはウチ界隈のネットに現れた事は無いっす。
あれ、ホークスって負けてたんですか。いつも勝ってるイメージがあったのに。タイガースがヤバいのでwそっちに気がいってしまっていてパリーグの動向は見落としてました。
>9回には、最近抑えを失敗してる馬原投手が出てきたんで
応援席が、くら~ぃ雰囲気に・・
あれ、三瀬じゃなかったんですか。ケガかなんかだろうか。馬原もいい投手ですからねー。
しがない憲法研究家さん>
>ほんとの話なのかもわからないし、専門用語がわからないorz。
いや、あれは業界の人間じゃないとわからないんじゃないかと思います。内容がもうホントに。でもなんとなくとんでもない様子は伝わるかと。

>「【軍曹が】携帯電話開発の現状【語る】」
>いや、あれは業界の人間じゃないとわからないんじゃないかと思います。内容がもうホントに。
orz
ブログ書く時間すらない、といっているうちはまだ大丈夫なのがエンジニアクオリティ

隊長>
(上司)あともう一踏ん張りじゃないか。さ、ユンケル飲んでがんばろう!
( ・∀・)つ昌
(エンジニアにとって一番喜べない差し入れ)

コメンツスクラーム!!再度出没orz。
>でもなんとなくとんでもない様子は伝わるかと。
 それは、読めばわかりました。
>あれ、三瀬じゃなかったんですか。
 あれ?三瀬はどこに行ったんでしょうか?Amiさ~ん。確かに防御率が・・・。
 ちなみに、三瀬ルベール牧場どんぐり村(昔、三瀬ファームって言ったんでしたっけ?)というのが、ドームから車で小1時間南に行くとあったりなんかする・・・。

>Google や Six Apart や「はてな」のような派手な企業だけが良い企業というわけでもない。
同感です。
最近はてなブックマークばかり見てるせいか、はてなが無条件で素晴らしい企業の代表格みたいな文章にちょっとばかり食傷気味で。

しが研さん>
阪神とホークスの交流戦の時は、三瀬がクローザーでした。
んで、いきなり危険球退場になって、俄然盛り上ったけど結局負けたんじゃなかったけか?(違ったかな)
Scottさん>
>はてなが無条件で素晴らしい企業の代表格みたいな文章にちょっとばかり食傷気味で。
いやー、まったく同感です。はてなブックマークは全然ソーシャルブックマークじゃないっす。
「はてな」「モヒカン」「Ajax」などの言葉には無条件で反応するクローズドなコミュニティでしかない。だからブックマークがだんだん単調になってる気がします。
みたいな事をエントリーにしようかと思ったけどまとめきれてませんorz

にわか野球評論家のしが研がコメンツスクラーム。(´・ω・`)
>俄然盛り上ったけど結局負けたんじゃなかったけか?
 「三瀬 危険球 退場」でグルグルっと検索すると、6月2日、阪神7-9ソフトバンクで、阪神が負けてますね。9回裏に三瀬が危険球退場、その後佐藤が抑え、ゲームセット。
三瀬のデータはこちら。
http://baseball.yahoo.co.jp/npb/player?t=dp&id=400029

[economy]輜重輸卒も兵ならば蝶々蜻蛉も鳥の内

後段は「電信柱に花が咲く」ともいいますが、戦前・戦中の陸軍における兵站軽視を端的にあらわす言い振りとして有名なものです(兵站軽視だったのは海軍も同類で、陸軍だけ…

 ひとつのチーム(ひとつのプロジェクト)に優秀な選手を集めてドリームチーム作り、そのチームが大きな動員力(収益)を上げたとしても、その他のチーム(プロジェクト)の試合に閑古鳥が鳴いていてはリーグ(企業)全体としては大赤字になってしまいます。
 MMさまのおっしゃる通り、まるでどっかのでっかい人のチームみたいな話ですね(´・ω・`)
 ただ、ドリームチームが必ずしも愚作であると言うわけではありません。野球で言うとオールスターやオリンピックですかね。
 他の業務に差し支えないように調整してドリームチームを組んだりとかならデメリットも少ないですし、社運をかけたプロジェクトみたいなのになってくると、ある程度のデメリットを覚悟して人材をつぎ込むのもありだと思います。
 ただ、寄せ集めの即席チームって、なかなかうまく機能しないんですよね…(・ω・`)ゞ
 これは、企業の理屈、経営者の理屈です。技術者からすれば、こういう理屈はわずらわしいんでしょうね。
 ですから、企業の理屈に縛られにくいベンチャーあたりは技術者の方たちにとっては居心地が良いのかなーと…思いました。
 自分のブログに書いてトラックバックした方が良いのかなと思いつつ、コメント欄に書いてしまう私は悪い子です…申し訳ありません…_| ̄|○

なぜかプログラマ系SEのMLに登録している俺ですのでDEATH MARCHが何かはよく知っちょります。友達にまさしく携帯の
音源の開発者もいますし。
でもね、そういう開発者もハッと思う瞬間があるんですよ。俺はこのままでいいのかって。
夢中に、真剣に、真摯に、誠実に、ただ一つの事に取り組む天才にも迷いは訪れます。
J2さんがそうだったから、今のJ2さんがあるんじゃないですか?
職人の世界を知らぬ人がきいたふうな口をたたいてる「大企業には…埋もれてる」の記事の記者、一面的で、せいぜいプロジェクトXでも齧りついて見ててくれればいいんですが(笑)
だから「成果報酬制度」なんてうまく機能しないんだよ、という意見ももちつつ。
ハデな動きをする人が<優秀>ってわけじゃないし、数字に表れない<優秀>ってあるんだ、と考えつつ。
すまん、まとまってなくて

しが研さん>
三瀬が調子を落としたのは、危険球退場がきっかけだったみたいですな。連続出場の日本記録まっしぐらの金本アニイへの投球でしたからねえ。本人もショックだったのでしょう。立ち直ってよかったです。
BBさん>
優秀な人間を集めるという事は、ウラを返せばそれ以外の人々へ「優秀でない人間」というレッテルを貼る行為でもあるわけで、人はそう簡単に優秀かそうでないかに分類できるものではない、と思ったりします。
企業の理屈と技術者の理屈は相反するものとは限らないですよね。少なくとも私は大企業勤めは楽しかったですし、企業を助けて業績を上げる事に自分自身のやりがいも感じてました。
WEBではベンチャー系ばかりが脚光を浴びる傾向にあるので、「そうじゃない人もいる」という事を訴えたかったわけです。
Amiさん>
とりあえず、三瀬選手の復活おめでとうございます。
パリーグの場合、どんなにぶっちぎりでも「プレーオフ」がありますから、油断無きよう。そんなことよりセリーグが怪しい雰囲気に。。。。自分の中では、郵政民営化が可決すれば阪神も優勝、と勝手に決めてます。あぶなー(笑
nomadさん>
>夢中に、真剣に、真摯に、誠実に、ただ一つの事に取り組む天才にも迷いは訪れます。
もちろんそうですね。人それぞれ確固たる決意を持って、自分の人生を生きればいいと。独立したいと思えば独立する。でも実際には、「名も無き大企業戦士」の方が圧倒的に多い。そこの視点でWEBで語られる事が少なすぎます。
プロジェクトX,そうまさにそれですよね。世の中プロジェクトXだらけなんです、本当は。銀行のオンラインシステムにせよ、携帯電話の交換機ネットワークにせよ、社会のインフラが構築されているウラには全て企業戦士の「知」と汗がある。大企業の優秀な人全てが独立して集積して「はてな」みたいな会社が100も200も出来たところで社会が良くなるわけがありません。ベンチャーとは「隙間産業」でもある事を自覚すべきです。

> 職人の世界を知らぬ人がきいたふうな口をたたいてる「大企業には…
> 埋もれてる」の記事の記者
これは誤解じゃないですかね。
著者の人は、この記事を書いた前の月まで、有名な日本の大手電機会社で
働いていたわけで。たんに、大企業を飛び出した人が、その飛び出した時
の心境を素直に書いただけなのでは?

15>
そーですね。たつを氏はおそらく私と同じ会社にいたんではないかともにょもにょ(゚~゚)
ただ、巨大企業となると、部署によっても全く仕事内容が違ってきます。飛び出した時の心境を素直に書いただけならいいんですけど、話を一般化しちゃったところは少し個人的にひっかかりました。
ま、ご指摘の部分は確かにちょっと語弊があるかもしれませんね

> 有名な日本の大手電機会社で働いていた
それなら言っちゃ悪いけどなおさら悪いよ。
いわゆるITな会社の現場を見てたんでしょう?
こんなヌルくてユルい、世間の皆様に迎合するような記事なんかに俺は価値を認めないね。
プロジェクト×でも見てお手軽にお涙頂戴してりゃいいんですよ。
会社っていう組織の中で何を見て来たんだ。
まるで田んぼの中で落ちた稲穂を拾うような泥臭いIT仕事をしてる俺からすると、ベンチャーの何が「優秀」なんだって思うね。
ベンチャーに全国の工事調整ができるの? 全国で安定したサービスが提供できるの?
そういうバカみたいに陳腐な仕事の積み重ねがあるから組織力ってのが生きてくるんだ。
仕事のスキームをフールプルーフのシステム化できることを組織力って言うんだ。
面白くもなきゃ華やかでもない、評価の得られないような仕事を黙々と淡々と「組織の中に埋もれて」進めて行くことの大切さを省みないこの記事に、俺は何も得るところはないね。
会社を飛び出して開放感を感じていること、飛び出したことで自分を誉めたい気持ちで「優秀な人が飛び出すのだ」と言いたいなら無邪気なもんだが、無邪気すぎて腹が立ってくるよ。

nomadさん>
件の記事を書いたたつを氏は、間違いなく「優秀」な方です。プログラミングの世界では有名な方です。
件の記事には、まったく賛同できなかったので反論しましたが、私には個人攻撃の意図は全くありませんよ。
記事に対する反論ならわかるんですが、相手の事をよく知らないのに著者を攻撃するのはいかんざき (・A ・)

> 評価の得られないような仕事を黙々と淡々と「組織の中に
> 埋もれて」進めて行く
nomad 氏がはげしく反応しているのは、実はたつを氏に内心
同感している部分があるからのような気がしてきました。
会社に評価されてないのであれば、その組織を飛び出した方が
いいのでは? 人生は会社のためにあるんじゃなくて、自分の
ためにあるんですから。

ありゃ。誤解されちった…
僕が誤解されるような書き方をしたのが悪いんですが。
激しい反応をするといけませんね。
僕はこの記事を書いた人のことは知りませんので恨みも何もありません。個人攻撃であったということであれば訂正します。すいません。
僕が言いたいのは、「この記事は一面しか現していない。だからヌルい」ということです。
ソフト開発をしているような組織と、ビジネス開発をしているような組織は、求められる「優秀さ」が違うということを伝えたかったのでした。
(それはJ2さんと同じ感覚だと思っているんですが)
天才も芸術家でもない優秀さではなく、大企業に求められているのはサービスの安定供給という面の優秀さ、なのだと。
で、まあ、僕みたいにいろんな面で優秀とは言い難い人材は、独立する才覚もなく、企業の中に居心地の悪さも覚えつつ、論評するしかないわけですな。(くだを巻くとも言う)
とはいえ、自分の人生は自分で決めてはいるんですけどね。

nomadさん>
もちろん、nomadさんの言わんとしている事はこちらに伝わってますし、私がこのエントリーを書いた動機とも重なっています。
>激しい反応をするといけませんね。
言いたかったのは、まさにここんとこだけっす(・∀・)

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