「のまネコ騒動」を正しく理解する



9月1日にエイベックスが「のまネコキャラクターグッズ」販売を開始した事に端を発する「のまネコ騒動」はまだ収束する気配がない。(ご存知無い方は こちらの記事を参照)
この件に関してエイベックスの対応に非があった事は明らかで、怒りの世論が巻き起こるのも当然ではある。しかし一方でその問題点が整理できていない為に、ただ単に怒りを撒き散らしている論調が多いのは残念だ。
このエントリーでは、まず判断根拠となる法的解釈を整理した上で、この騒動の問題点について検証してみようと思う。

キャラクターとはそもそも著作物か?

この根本的なところがいきなりグレーゾーンだ。
まずは著作権法から「著作物」の定義を見てみよう。

1.著作物
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

この条文を読む限り、キャラクター単体では「思想又は感情を創作的に表現したもの」というのは微妙なものがあるし、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」というのもこれまた微妙だ。
では世に言う「キャラクタービジネス」において、キャラクターの著作権保護はどういう理屈で構成されているか。
CharaBiz.comというサイトの「基礎知識」コーナーの記述が参考になる。以下抜粋。

日本で使われている「キャラクター」の意味を簡単に説明すると、
一般的にはコミックやTVアニメーション、映画など著作物に登場する人やロボット、擬
人化された生き物などの総称として使われています。

つまり、アニメや映画など、まずベースになる著作物があって、その構成要素として派生的に登場キャラクターも著作権保護の対象になるという解釈であり、藤崎詩織事件などの判例を見てもそのような解釈がなされているようだ。実際、ミッキーマウス、ポケモン、アンパンマンなど、キャラクタービジネスとして成功したものは、その殆どにベースとなる「著作物」がある。
逆に言うと、そういった「著作物」の構成要素としての拠り所を持たない「図柄だけの」キャラクターが著作権の名の下に守られる可能性はあまり高くない。とりあえずそのような「図柄だけの」キャラクターが著作物か否かの判断が下された判例はまだ多分無いはずだ。
では、「キャラクター単体」の権利は通常どのようにして守られるか。
その拠り所として「商標登録」がある。例えばサンリオのキャラクタ群などはあらゆる分野において商標登録でガチガチに守られている。
以上の点を鑑みると、モナーやおにぎりが「著作物」として認められるかどうかは極めて微妙だ。そういう意味で「モナーなどのAAは商標登録しておくべき」という意見が、ある程度有効な方策である事がお判りいただけると思う。
ちなみに「のまネコ」も登録商標検索で確認した限りでは、未だ商標登録されていない様である。
[2005/9/29追記]
「のまネコ」及び「米酒」が有限会社ゼンによって商標登録出願されているのを確認。
なぜかキャラクターの図柄は「米酒」の方で出願されている模様。これはおそらく「のまネコ」と「米酒」はキャラクタ設定にとって不可分なものという事を明確にしたかったものと思われます。モナーとの明確な差別化を図ろうというエイベックスの意図は汲み取れる気がします。

AAはパブリックドメインか

AAが(著作物であると仮定して)パブリックドメインであるという説をたまに見かける。本当にそうだろうか。どんなAAも、それを最初に公表した人間がどこかにいるはずである。そして、著作者が不明な場合でも著作物は基本的に公表後50年間保護の対象になる。インターネットの歴史を考えてみても、AAが公表後50年経過しているとは思えない。
著作者が不明であるからといって、またそれらが世に広く普及しているからといってそれだけで著作権が消滅する法的根拠は無い。やはり「著作者不明の著作物」と解釈するのが自然だろう。
著作者不明の著作物を利用するにあたって、著作権法では以下のように定められている。

(著作権者不明等の場合における著作物の利用)
第67条 公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。

「のまネコ」にオリジナリティはあるか

のまネコとモナーの類似性について、知財分野の専門家である栗原潔氏のブログの記述から抜粋してみよう。

そういう意味で言うと、両者が類似してると認めてもらうのはちょっと厳しい気がします。
商標の実務で言うと、キャラクターというのはわりと類似の判定が甘く、ちょっとでも違ってると非類似とされるようです(まあそうしないと線画で描いたネコなんてみんな類似になってしまいますからね)。商標の審査と裁判所の認定は異なるプロセスですが、基本的考え方は同じだと思います。

確かに、商標実務の様に「図柄」だけから判断するのならば栗原氏のおっしゃる通りだろう。しかし、今回問題なのは「図柄」が似ているという事だけではない。それらの図柄には黒Flash当時の「オリジナル」があって、それが改変されていった過程が公にバレバレだったという事こそが問題なのだ。
わた氏が当初発表していたFlashで登場していたのは明らかに「モナー」であり「オニギリ」だった。少なくとも作品を見た者は皆そう思ったはずだ。そしてその作品がAAの巣窟である「2ちゃんねる」で発表されていた。
その同じ作品であるはずのものが、登場キャラだけが突然「のまネコ」に化けた。このプロセスこそが騒動の要因であって、単に「似てるじゃん」という問題ではない。
さらに極めつけは、エイベックス自身が、最早伝説となりつつあるw一節

インターネット掲示板において親しまれてきた「モナー」等のアスキーアートにインスパイヤされて

と述べて、AAとの関連性を認めた事だ。
少なくともエイベックスは法的に「シロ」だと言い切る事はできない。残念ながらモナーの創作者が不明な為に「手出しができない」というだけだ。

エイベックスはどこで道を間違えたのか

もう一度原点に立ち返ってみると、明確に「著作物」と言えるのはO-zoneの歌う楽曲とわた氏の「Flashムービー」だけである。登場キャラクタがモナーか否かに関わらず、Flash作品がわた氏の「著作物」である事は疑問の余地が無い。Flashだけ見れば本当に素晴らしい作品だと思う。
で、それらの状況から想像するに、おそらくわた氏がエイベックスに譲渡したのはあくまで「Flashムービー」の著作権であって、それはそれなりに報酬を受けてのものだったろうし、Flashの作者がわた氏である以上そこを非難するのは的外れだ。
まあ確かに、わた氏本人の弁解が火に油を注いでいる感はあるが、そもそも彼女は著作権についてあまり理解していない様に見受けられる。
(判っていればあんな意味不明で逆効果にしかならない弁解をするはずがない。)
これはあくまで推測だが、わた氏はエイベックスから
「Flashムービーの登場キャラクタについて著作人格権を主張しない」
「登場キャラクタについてAAであると公言しない」
あたりの事を確約させられた程度で、本人はそれを律儀に守ろうとしているだけではないだろうか。
それよりも、ここまで取り上げた点だけを見てもキャラクター周辺の法的判断はグレーゾーンだらけである事はお判りいただけたと思う。このテの騒動が起きる度に事態が混迷を深めてしまうのも無理も無い。
エイベックスはせめて「グレー」なものは、「グレー」のまま処理すべきだった。
少なくとも深入りすべきでなかった。
思えば、ドワンゴのCMにおけるAAの著作権処理なども外部からは不透明だし、電車男のドラマ中に出てくるAAが、しかるべき処理手続きを踏んでいるのかだって判然としない。
それでも騒ぎにはならない。深入りしなかったからだ。それが最低限の大人の判断というものだろう。
しかしエイベックスは「のまネコ」という急造キャラを生み出して、グッズまで販売してしまった。
グレーの上から無理やりペンキで白く塗った挙句、「著作者」として「権利」まで主張してしまった。本来、「著作物利用者」でしかないはずが逆の立場を装って目先の利益に走ったのだから、それは非難されても仕方が無い。そこがエイベックスの、唯一にして致命的な過ちだったと思う。
ちなみにFlash作品中の「空耳」がわた氏本人のアイディアかというのは、あまり本質的な問題ではない。詞の著作権はあくまで原曲の「作詞者」のものであって、その「発音」を日本語に置き換えただけで「創作物」とみなされる可能性はどのみち低いからだ。

最後に

昨年、わた氏の「マイヤヒFlash」を初めて見た時は感動したものだ。その後、何度繰り返し見たか判らない。
エイベックスの不始末ばかりがクローズアップされているが、本来著作権者に抹殺されがちな「黒Flash」を敢えて採用し、世のニーズに応えようとしたのは画期的な英断だった。その素晴らしい試みが、この騒動で全てオジャンになってしまったのが残念でならない。
他所の言及記事としては、
大西宏のマーケティングエッセンス:「のまネコ問題」は、avexがそういう会社だということ
がよくまとまっていた。今後の課題なども含めて同意できる部分が多かった。
よければこちらも併せて。

Comments

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「「のまネコ騒動」を正しく理解する」への11件のフィードバック

  1. わかりやすく整理していただきありがとうございます。「本来著作権者に抹殺されがちな「黒Flash」を敢えて採用し、世のニーズに応えようとしたのは画期的な英断だった。その素晴らしい試みが、この騒動で全てオジャンになってしまったのが残念でならない」という点はほんとうにそう思います。
    短期的な売り上げよりも、ファンとの関係を大切にするほうが経営としては王道ですね。

  2. 大西宏さん>
    はじめまして。コメントありがとうございます。
    この様な騒動を繰り返さないために、大西さんおっしゃるような窓口団体、具体的にはとりあえずAAが著作物かの判断は留保しつつ、利用者のガイドラインを規定する団体みたいなのを提唱できないものですかね。GPLみたいな。
    利用はフリーだけど、商標登録は認めない、とかそういった感じで。

  3. 今回の件はこれまでのavexの行動があるから、よけいに盛り上がってるんだろうなと思います。浜崎の「感じ悪いね」発言やCCCDについての対応、定期的に盛り上がるぱくり疑惑etc…
    かくいう自分もかなり頭に来てるわけですが、いろいろややこしい業界なのでダミーやペーパーカンパニーがあるのは当然だとしても、それを公表してしまう感覚がよくわからないです。この手の会社は表に出てこないから機能するものだと思ってたんですが、ゼンをトカゲのしっぽにして終わらせるつもりだったんですかね?
    ところでモナーの著作権に関してですが、AAを使った物語風のレスやFlashがあるので、物語を作った人間が最初にそのAA発表した人と同一人物かという問題はあるにしろ、何らかの権利は発生するんじゃないかという気はします。
    モララーに関しては作者がほぼ判明してますし、むしろモララーの方がのまネコに似ている気がするんで、法的にもはっきりしてくれたらいいなと思ってます。

  4. ————–
    Avex関係者の自宅へ:手紙を用意しました。PDF印刷するだけ。
    自宅住所も調査済み。 みんなも参加するモナ
    http://blog.livedoor.jp/protectmona/
    自分の愛するモノは自分で守れ! (`・ω・´) シャキーン
    ブログで orz してるだけじゃダメモナ。
    ————–

  5. 773さん>
    まあ、avexはアンチも多いですからなー。つか、私も基本的にはアンチですがw
    ゼンのサイトのドメインからエイベックス関連会社に辿りついた経緯は笑いました。ホント、お粗末ですねえ。
    基本的に、この騒動の根本が理解できずに混乱しているんだと解釈してます。とかげのしっぽ切なんてできっこありませんよ。グッズ販売が元凶なんですからね。
    過去のAAの物語やFlash作品からモナーの著作権を主張するのは残念ながら無理だと思います。モナーを使った作品は星の数ほどありますからね。それはむしろ著作権を主張するには「不利」な材料です。著作物の「創造性」を司るものではないわけで。やっぱり、「最初」にモナーを公表した人にかかってくるわけです。もしくは力技で「2ちゃんねるの書込みの著作権は全て2ちゃんねるに帰属する」という規約にしてしまう事。これでひろゆきが著作者として振舞える可能性はあります。
    これも後出しジャンケンだとどう判断されるか微妙ですが…
    あと、モララーにしても「創作者」を主張するのは誰でも出来ますから、「我こそが創作者である」という事を客観的に証明しなければならないところがまたハードルなんですよね。この問題はホントに奥が深いです。
    Protect MONAさん>
    活動ご苦労様です。
    一応、無粋ですが「モナー」が無くなる事は有り得ませんので安心してください。モナーがのまネコより以前から存在している事は明白ですから、著作権を縦にされる事は有り得ませんし、のまネコが商標登録されたとしても、「モナー」とは別物なので使用を制限する事は不可能でしょう。
    でも、エイベックスに商標登録されてしまうのは好ましくないとは思いますので、そういう意思表示は重要と思います。

  6. “英断”には当初からキャラクターグッズの販売等も視野に入れていたのかもしれませんが、それが最初からであるにせよ、途中からであるにせよ、どちらにしてもその後の対応は素人もビックリのお粗末な対応であるとしか思えません。J2さんがお書きになっているように、エイベックス側とそれを糾弾(?)する側には問題としている点にズレがあるような気が致します。
    もし、これが逆の立場(単純に比較出来るものではないとは思いますが、例えばエイベックス所属のアーティストに果てしなく似たAAのFlash作品から生まれたグッズがエイベックス以外の会社から販売されたとしたら)なら「インスパイヤされて新たなオリジナリティを追加し・・」なんてぬるい言い訳が通るのだろうかと思います。下手したら裁判沙汰になりかねないでしょう。
    何故ならエイベックスには“共有財産”という発想は有り得ないから。きっとそのズレが正されない限り、この問題は尾を引くんだろうなと思います。

  7. big_sidさん>
    >「インスパイヤされて新たなオリジナリティを追加し・・」なんてぬるい言い訳が通るのだろうかと思います。
    とゆーかですね、どんなケースであってもこの言い訳は通りませんよ。「オリジナリティを追加」なんて言っちゃえば、修正元にもオリジナリティがある事を自ら認めてる事になりますよね。
    贔屓目に見ても「二次著作物」が限度でしょう。
    スルーし続ける程エイベックスにとっては企業イメージの低下が深刻になっていくだけだと思うんですけどねえ…グッズ販売を止めるだけで間違いなく騒ぎは沈静化するはずなんですがねー。

  8. のまネコがゆっくりと落ち着いてきて

    またなんか自分の周りにガソリン撒くような話ですがw
    こういうブログを発見しまして。
    あーそうそう、こうなんだよねーこの人文章上手いね、
    つーか自分やっ…

  9. 素朴な疑問なのですが、大昔のピースマークとモナーは、使用方法に違いが有るとはいえ、同じような存在なのではないでしょうか?
    推測ですが、あのマークに著作権者はいなかったと思います。そして多くの企業・個人が事由にそのマークを利用していたと思います。
    ネットの無いあの時代でさえ、あのマークを排他的に商標登録などすれば、かなりの批判を浴びたのではないでしょうか?
    今の法律では、そのキャラクターの専攻使用者の一人として、排他的な商標登録の無効を訴える事はできないのでしょうか?

  10. tomboさん>
    ピースマークはハーベイ・ボールという人の創作です。
    ”ピースマーク ハーベイ・ボール”でググるといろいろ判ると思います。
    確か、この作者の方は意図的に商標登録をせずに、平和のシンボルとして広く普及させるために自由な使用を認めたはずです(うろ覚えですが)
    ですから、モナーとはちょっと事情が違うでしょうね。
    ちなみに著作権というのは、基本的人権と同じで、その創作物が生まれた瞬間から自然権的に発効するものです。
    ですから、著作者が不明、著作者が複数の共同作業というのはあっても「著作者がいない」という状況は法的判断としてありえないんです。

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